1-2 異世界帰り

 異世界帰りは珍しくない。

 いや珍しいことではあるが、認知の問題である。ここ最近の統計では年間でおよそ平均80名。それだけの人数が世界中のどこかで観測されている。

 最初の1人は30年前に遡る。ちなみに日本人だったらしい。


 異世界とひとくくりに行っても、その世界は無数にあるーーらしい。

 自分が経験した世界は一つのみだけなので、複数の異なる世界があるという事実は伝聞による。

 ある世界はこの世界よりも科学が発達している。

 ある世界では宇宙人が当たり前のように存在する。

 ある世界では魔法と呼べるものが存在している。

 そんな具合。

 ちなみに異世界帰りを一番多く有するの中国そして日本、アメリカ、フランス、そしてイタリア、韓国……となるようだ。

 そして何よりこれは異世界帰りの数であり、異世界にこちらから行ってしまった人はより多いと推測されている。

 要するに、異世界転移はあり得なくはない。

 それこそ常識に組み込まれ、同時に保護され、同時に管理されるぐらいにはーー。


「ところでなんですけど」

 と、ある日の事だ。

 後輩がお茶をすすり、さも興味はないけど聞いてみているという体で聞いてきた。

「なんだよ急に」と、こちらはコーヒーをすする。

「異世界ってどんなところなんですか?」

「……急な質問だな」

 と言ってはみたものの不快な話題ではない。やや驚いてはみてみるも、そこまで驚いてはいない。

 この手の話題は初対面かその一週間後ぐらいに交わされる事の多い話題である事が多かった。組織に属していれば知ろうと思えば知る事ができるし、知ろうと思わなくても噂で知ることケースが多い。

 それはなぜか。それは異世界帰りという存在を世界は、危険とまでは行かないまでも監視の対象としているから。

 そして同時に利益をもたらしてくれる存在であるとも判断されている。

 ここで危険にフォーカスするなら、私は人を殺している。

 1人ではなく、2人でもなく。

 たくさんの命を私は奪った。

 簡単な理由からそうしたわけもなく。誇っているわけでもなく。ただ異世界で戦争を経験したからだ。

 では利益はと言うとーー。


「異世界転移を経験した方が身近でいらっしゃる事に純粋に驚きました」目を輝かせながらそう言うのだ。「本当にもう驚きました。それが比較的よくしていただいている上司で先輩だった。なら聞いてみるしかないじゃないですか。先輩は魔法が使えるのですか?」

 と、言うのだ。

 とりあえず頷いてみた。

 考える。考えようとして考えるときは大抵何も考えていないものだが。

「魔法というかそうだな……」と、とりあえず喋る。「魔法もあったけど得意じゃなくてね」

「何なら得意だったんですか?」

「いやいや、得意なんてないさ」

 言うも後輩は腑に落ちない様子なので仕方なく続きを喋る事に。

「神秘って魔法とは違ったのがあるんだけど、それがまぁ他の人よりか上手ではあったかな」

「それは具体的に何ができるんですか?」

「色々できる。でも基本的なことで回復と強化に優れててね」

「すごいじゃないですか」

「調べたならわかると思うけど、全然すごくなくて、もっとすごい異世界帰りはそれなりにいるよ」

「そんなことないです。先輩がそうだと知ってから、国会図書館に行きまして体験談を読ませていただきました。すごいの一言でした」

「それはまぁ……どうもありがとう」

 尋問とも置き換えられる機関での事情聴取。

 あれこれ喋ったがその記録は国会図書館でのみ、身分証明書の提示と口外を誓約に読む事ができる。

 さて要するに。

 異世界帰りは例外なく、わたった先の世界で異能を体得、または超常の知識を得ている。その人の枠から外れた部分に国は利益を感じているというわけだ。


「そのそれでなんですけど……」

「ことさら改まってどうしたよ」

 一体何を聞かれるのだろう。

 巨人との和睦交渉。

 神紋の継承。

 はたまた魔神との死闘。

 それか、あれか。どれか。

 しかしながら。

「ご結婚されてたんですか?」

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