ご褒美の約束
あっという間に放課後になり、四人は校舎を出ると、灰色に青を混ぜたような色の不思議と明るい空の下、バス停の前で分かれた。
金森、清川、守護者が同じバスに乗り込んでいく。
ドアが閉まる寸前、愛用の自転車、風切丸にひらりと飛び乗った赤崎が、
「金森響、明日も試練に向けて修行だ! 逃げるなよ」
と、大声を出した。
返事をする前にバスのドアが閉まり、やけに疲れた顔の金森が空いている座席に腰掛けると、スマートフォンが軽快な通知音を鳴らした。
見れば、先程と全く同じ言葉が、MOTINというメッセージアプリを通して送られてきている。
『め、面倒くさい奴。はいはい、逃げないって』
気だるげに、ポンッと怠そうな猫が頷いているイラストを送った。
「ふふ、可愛い猫さん」
スマートフォンを覗いて笑う清川と目が合った。
清川が気まずそうに目線を逸らす。
「あ、ごめんね。勝手に覗いて」
「いいよ、見られて困るものじゃないし。それにしても、疲れたね」
スマートフォンを覗かれると怒る人間の方が多いのかもしれないが、金森は全く気にしない派だった。
おおらか、というよりはガサツが故に気にしない、といった感じだ。
金森が座席にどっかりと背をもたれさせてため息を吐くと、清川はおかしそうに笑った。
「でも、私は、楽しかったな。こんなに楽しい、試験勉強は、初めてだよ」
ふんわりと和やかな清川を、金森がまん丸くした目で凝視した。
「え、嘘! 私にとっては勉強なんて、いつ何時でも地獄でしかないよ! あー、これがあと一週間か……そうだ! もしも私が数学で平均点以上を取れて、遠足をめいっぱい楽しめることになったら、一緒に水着を買いに行かない?」
遠足では海で遊ぶことができるのだが、その際に着る水着は学校指定の水着と個人的に持っている水着の、どちらでもよいことになっていた。
金森の提案に、清川は瞳を輝かせて頷いた。
「うん、約束! 響ちゃん、絶対に数学、頑張ってね! そしたら、遠足で、たっくさん遊ぼうね!」
普段は大人しい清川が子供のようにはしゃいで笑い、金森と指きりしているのを見て、守護者は嬉しそうに微笑んだ。
清川と守護者がバスを降りてから少し経って、自宅近くのバス停に着くと、金森もバスを降りる。
『赤崎にもお礼を言うべきなんだろうけれど、なーんか癪なのよね。でも、お礼はするべきか。どうしよう、お菓子でもあげればいいのかな』
そんなことを考えながら歩けば、あっという間に家に着いた。
玄関の鍵を開け、母親からの「おかえり」に「ただいまー」と返しながら自室への階段を上がっていく。
制服のままで、ボフッと畳まれた布団の塊にダイブした。
このまま夕飯まで眠ろうかとも思ったが、不意に清川と交わした約束と、文句を言いながらも一生懸命に数学を教えてくれた赤崎の姿を思い出す。
「少しは頑張るか。あんなにしてもらって平均点とれないんじゃ、さすがに悪いし」
ボソッと呟くと勢いよく立ち上がって、投げ置いたリュックサックから教科書とノートを取り出し、勉強を始めた。
そして、開始から十分で眠りに落ち、教科書は枕になってしまった。
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