寂しい夜のこと

 星明りが一つも届かない夜。

 遅い時間には似つかわしくない、小学生くらいの少年がひっそりと家を飛び出した。

 少年は、上の方が真っ黒で下の方へいくほど白っぽくなっていく、グラデーション掛かった珍しい白衣を着ており、癖のない黒髪は男の子にしては随分と長い。

 裾がふんわりと広がるワンピースのような白衣も相まって、少年は女の子のような見た目をしていた。

 ガチャリと音を立てて施錠したのだが、家族は誰も気が付かない。

 中身のあまり入っていないリュックサックを背負い直して、首から下げた鍵を胸元にしまい込む。

 小さく震える口からこぼれる嗚咽を、必死に噛んで飲み込んだ。

 真っ黒い瞳から滲んでポロポロと溢れる涙を長袖で拭って、俯きがちに歩いて行く。

 深夜ではないので、町には、ちらほらと人通りがある。

 部活帰りの高校生や仕事終わりの会社員などとすれ違った。

 だが、泣いている少年に話しかける者はいなかった。

 少年はバスに飛び乗った。

 満天の星空のように輝く町の明かりを置き去りにして、バスはどこまでも進んで行く。

 少年はそれを、窓から眺めていた。

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