2.天使とおてんば学生お嬢様と
「……すごい街ね」
その場所からは、
街というよりは、巨大な都市と表現するほうが正しいだろう。
「“これ”にしたって、ずいぶんと進んでいるというか、なんというか……」
彼女の手に握られているのは、小型の電子デバイス。それを指で触りながら、
外への意識が完全に遮断されていた彼女は、前を歩く人間に気づくことがなく、そのままぶつかってしまった。
「っ!?」
「──わ、わっ……!」
ぶつかった方、ぶつかられた方も共にその場にすっ転んだ。
「い、いたた……」
「ごめん。大丈夫?」
「は、はい。少し擦りむいただけですから」
そう言うと、その金髪の学生は立ち上がろうとする。だが──途中でまたへたり込んでしまった。
「い、痛っ」
エインが学生の足を見ると、その膝に擦り傷ができていたようだった。生々しい傷跡からは血が溢れている。それを見た彼女は、
「そのままで。動かないでね」
「へ、へっ?」
元天使が、その傷へと手をかざす。だが、傷跡へと応急処置を行うわけではなく、ただ手をかざして目をつむっただけだ。
「あ、あの……」
「気にしないで。私が原因の怪我だから」
「いや、そうではなくて……って」
突然のことに困惑する女学生。だが──それに驚く暇も無く、彼女は非現実的な状況に置かれてしまった。
彼女の足下から──光る“魔方陣”が出現したためだ。
「な、何なのでしょう、これは……」
目の前で起こる事象に対して、ただ口を開けて見ていることしかできない学生。しかし、そんな事はお構いなしに、エインの手が──光り出した。
正確には、手に幾何学的な文様が浮かび、それが光を帯びている。
「一体、何が──」
『
「──え」
「……あら? 傷が……」
光が消え、いつもの日常が戻ってくる。違和感を感じた女学生が、傷を負った膝を見てみると、綺麗さっぱりそれが無くなっている。跡もなく、まるで最初から怪我などしていなかったように。
「成功ね。腕が鈍っていなくて良かったわ」
元天使はその場で立ち上がって、女学生へ頭を下げた。
「迷惑をかけたわね。本当に……ごめんなさい」
そう言って、その場から立ち去ろうとする
「あ、あの! あなたは一体……」
「私? 私は……そうね」
元天使の人間は、ぶつかった女学生へ向き直ってこう言った。
「至って普通の──どこにでもいる学生よ」
・
・
・
「普通なわけないです!」
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……。ふ、普通ですけど!?」
「嘘ですよっ!」
元天使が全速力で走っているにも関わらず、息を乱すこともなく追いついてくる女学生。もはや抗う気も失せたのか、
「だって、一瞬で傷を治すことができるなんて。お医者様でもそんなことはできませんわ」
「すぅ……。はぁ……。あなたが見たことがないだけか、あるいは目の錯覚でしょう」
「……残念だけど、私急いでるから。さっきのことは申し訳ないと思っているわ」
息を整え、すたすたと歩き出す
「あ、その、あなたを引き止めたのは、それが理由ではなくて」
「よろしければ──ご一緒に登校しませんか?」
それを聞いて目を点にする
「……って。もしかしてあなたも?」
「はい。萩目学園の学生なんです」
萩目学園とは、共学の高等学校だ。普通の生徒はもちろん、学園の方針によって、
「そうだったのね。ならご一緒させてもらおうかしら。道が分かるか不安だったから」
「わかりました。では一緒に行きましょう?」
金髪の女学生は、大げさとも言える動きで喜んでいる。
「……喜びすぎじゃない? ……えーと。名前を聞いても?」
「もちろんですっ!」
その学生は、エインの前へと出て、お辞儀をした。
「
それを聞いた元天使は一瞬考え込んだあと、
「……うん?
「はい。お母様が理事長を務めてますから」
声には出ないものの、表情を見るだけで驚いている、そう察することが可能な表情をする元天使。
「え? そ、そんな人とぶつかっちゃったわけね……。恐れ多いというか何というか」
だが、彼女の前にいるお嬢様の反応は、特に怒るようなものではなく。
「そんなに畏まらなくてもいいですよ。なにせ、同じ学生なのですから」
「そういうものなの……?」
エインにそう問われた
「そういうものなのです」
元天使も、自然と笑みがこぼれる。出会い方はアレだが、
「……そうね。言い忘れてたわ。私は──
「はい、こちらこそ!
──
それは、地上へ墜ちたがゆえに──。
「それで……本当に普通の学生ですの?」
「それは本当よ。……本当だからね!?」
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