第3話 俺の体は半分天使
一か月が経った。俺は今自分が置かれている状況を知った。そして、手紙の男がなぜ綴らなかったのかを理解した。生きるために人から物を盗んで生きている。
俺は人間じゃなかったからだ。半分は人間だ。これに関しては掛け値なしと言っていい。正確には四肢を除いた右半身と左下腹部と頭が人間。問題はもう半分。もう半分は天使だった。フィクションの世界でよく書かれる美男美女の背中に羽が生えていて、光輪があるわけじゃない。この世界の天使は、機械だ。この世界に住む人間を根絶やしにするため宇宙から現れた天使だと裏路地に住む髪がさみしいおじさんからやさしく(意訳)教えてもらった。つまり、俺は世界の敵、人類の敵である天使のハイブリット。俺に隠された力が・・・!とかやってみろ。その時点で保安官が軍を派遣してくる。それどころか、俺はこの体の使い方すらまだ知らない。わかっているのは、この体は食べていなくても生きていけること、傷の直りが人知を超えていること、そして俺は死にかけということ。
この国では天使を1体殺すのに人間が15人必要と言われている、これは通常兵器ではという前提がるのだがそれは置いておこう。その強固な装甲を持つ天使なのになぜ死にかけなのか。それは俺の人間の体が天使の体について行けないからだ。今は何とか均衡を保っているがいつ崩れるかわからない、次に怪我した時か、目を覚ました時か。神のみぞ知る結末だ。ともかくこの街から出ていくにもお金が必要で、いくら食べ物を必要としなくても喉は乾く。そのために働こうにも見た目のせいで怯えられ仕事にならない。何とか布で姿を隠してもいつかはバレてしまう。だからここで俺が生きていくためには人から盗むしか道はなかった。
月日が経過すればするほど心がすさんでいくのがわかる。本当ならばこんなことしたくない。という良心が心に傷を付けて行く。今は前述した頭の寂しいおっさんのヤ―爺と二人で過ごしている。俺が水や食料を提供する代わりに情報提供と窃盗時のかく乱を担当している。力関係はヤー爺も理解しているが、成功したときには礼を必ず言う、逆に失敗した時でも小言を言って俺がそれを許容しているくらいには打ち解けている。それに、ヤー爺は理由はよくわからないが俺の体を見ても怯えていなかった。それだけでも俺にとっては何よりありがたかった。肝が据わっていると言えばいいのだろうか、どこに行っても堂々としていて狼狽えない頼りがいのあるおっさん。
この日は随分と晴天でヤー爺と一緒に窃盗した後の一杯を楽しんでいた。
「今日も何とか1万。それから食料をヤー爺基準で三日。水は少ないけどまた明日取りに行けばいいか」
「随分と手慣れてきたな、ところで貯まった金はどうするんだ?お前なら水ぐらいしかかわんだろう」
「この街を出る資金にするつもりだよ」
行く当てはない。それでもここからは出ていきたかった。ここには俺らしき痕跡はもうなさそうだから。ヤー爺には俺のことも調べてもらっていたが数日前に門を超えた軍の施設の奥に誰かが行ったという話を聞いたけど、「人間だった」と期待をする前に釘を刺された。それ以外で俺に少しでも絡みそうな情報はなくこの国の者じゃないというのが俺とヤー爺の見解だった。手紙の事を尋ねるも見たこともないらしく、曰く「この国には人が多いが路地裏に入る人間は限られている。ちょっと入ったぐらいならわからないが、入り浸っている人ぐらいは覚える」だそうだ。つまり、あの手紙を残した人はピンポイントにあのゴミ捨て場に残したことになり、謎を深める結果になってしまった。
「ここを出ていくなら、隣町じゃなくてもう一つ先の廃村を目指すと良い。隣町はここよりも治安が悪い。つい一か月前に廃村は天使に滅ぼされて立ち入り禁止になっているが、お前なら入れる」
「そっか、ありがとう。覚えておくよ。でも最終的にどこに行けばいいのかわからないんだ。そうだ、ヤー爺の故郷ってどこ?俺、そこに行きたい」
「故郷だ?あそこはロクなものがねえ。ただの川沿いの漁村だ」
「漁村、でも行ってみたい。なあ、ヤー爺も一緒に行かねえか?」
「いか・・・いや、そうだな、たまには顔を出しに行くか。川の近くにいい釣り場があるぞ。ゆっくり腰かけて一日中座っていられるいい場所だ」
「何それめっちゃ行ってみたい、魚釣りやってみたい!」
「ああ、教えてやるよ。とりあえず、今日は寝るぞ」
そんな話をしてこの日は床に就いたのだが、翌朝寝床にヤー爺の姿はなく、珍しく街が騒がしい。嫌予感がして門の前に行くとヤー爺が居た。両手と首を床に固定され自力では動けない態勢だった。歴史の教科書で見かけることもあるギロチンの固定と同じだが、ギロチンの刃は見当たらない。両脇には銃剣を持ち鉄仮面で顔を隠した兵士。
「これより、ヤクト・ルコールの処刑を始める、罪状は国家反逆罪!」
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