第3話
「ねぇ、旦那ぁ。
上がっていかない」
東風は吉原で初めて見る顔に色目を使う。
つい数日前から客を取り出したばかりで張り切っていた。
ちょうど
しかし
年季は十二年。
どうせ吉原から出られないならば、最高位である
涙は枯れた。
「名は?」
その商人らしき男は誘いに乗ったようで見世に近づいてきた。
じっくりと
その様子から江戸の者ではないようだ。
旅姿ではないが小振りの道具入れを背負っている。
ここ数日頑張ったので
「あちきは
商人風の男は少し考え込む素振りを見せた。
だから
なで肩でほっそりとした身体、ただでさえ白い肌に
紅も厚ぼったい唇に、
「良いだろう
案内してくれ」
その言葉を聞き、
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数日前から客を取らせている割に気落ちするでもなく仕事をしている。
普通なら
ただ、全く問題がないわけでない。
引き取ってきたときから唯一直らないのが舌足らずな話し方だった。
しかし直らない。
もう三年も直らないのだ。仕事さえこなして
そのような
二人が階段を上っていった後もじっと見つめ続けていた。
「
髪はきちんと結われているが、着物は胸元がはだけ真っ白な乳房が着物の隙間から半分顔を出している。
「ほれ、しっかりしないか」
その様子を見ながらふと思い立ったように質問をする。
「そういえば
さっき階段を上る
「ん~、ちょっと……ね。
まだよくわかんないでありんす」
何かを思い出そうとしているような表情を浮かべている。
「だめですね、
もう一度、薄い唇を開くとほんわりと煙の輪っかが部屋の中を漂った。
首が痛くなるほどだ。
「お昼寝してきんす」
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客を取らないときは
客を取るときのみ専門の部屋へ行く。
そこは六畳のこざっぱりとした部屋だ。
もっとも、畳も新しく、調度品も良いものが揃っている。
部屋に入ったとき、すでに床は敷かれていた。
男は黙って中へ入る。
商人風の男は
「ねぇ、
荷物はすでに部屋の隅へ置かれている。
四十を過ぎた頃だろうか。
背はそれほど高くなく、肉は締まっている。
「ん?
あぁ、のんびりとしたところだよ。
だが今は
私は
今は
この
数年前から大雨・洪水などの自然災害、稲を食い荒らす害虫の発生。
また、先年には東北地方で火山が噴火し、
このため吉原には地方各地から身売りされた
江戸最大の歓楽街・
「え、じゃあ。禁制のキリシタンで?」
キリシタンはご禁制だ。
ばれれば
四年前に島原・天草一揆が起こったからさらに厳しくなった。
一揆は苛烈な戦いで、鎮圧されるまでおよそ一年に及んだという。
「いやいや、私はキリシタンではないですよ。
それに滅多なことを言わないでください。キリシタンは死罪ですよ……」
それはそうだ。
どこに幕府の密偵が潜んでいるかもしれないこの江戸だ。
キリシタンだと分かればすぐに奉行所に引っ張られ牢に入れられる。
激しい
「ふ~ん、まぁ、いいや。
ところでどんな物を売ってるんでありんすかねぇ?」
「そうだな。
びいどろの器とか、南蛮の髪飾りや胸飾り。
あとは精力剤なんかだね」
「精力剤?
「いや?
もっと良いものさ。
試しに飲んでみるかい。
どうせ使いたいしお代はいらないよ」
差し出された竹筒。
甘い飲み物。
そのまま嚥下する。
こくりこくりと
「なんか、身体が熱い……」
その様子を見ていた
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