愛に殺された私たちは。 Ⅰ
高校卒業後、私は地元から離れた大学に進学しました。
家族から離れようとしたのは言うまでもありません。私は一人で過ごしたかった。それは、未亜との幸福論で学んだことでした。「自分を否定されない事より幸せな事はないよね」と。
家族というもの自体に嫌気がさしていた私は、迷わず家から遠い大学を選びました。
大学はつまらない場所でした。何もかもがつまらなかった。急に授業をほったらかす教授、友達のいない研究室、生意気なゼミの先輩。
結局、私の乾いた心を癒せるのは信仰でしかなかったのです。一人でいることの幸福を知った私は、同時に一人であることの不幸を知りました。
壁の薄いアパートで、ただぼんやりと窓の外を眺める毎日でした。大学には行けず、単位はどんどん落としていきました。私を見つけてくれる人も、私を叱ってくれる人も、私を慰めてくれる人も、誰も居ませんでした。私は独りでただ堕ちてゆくだけでした。
ーー未亜、もし私が貴方を神様になんてしなければ、私も貴方も救われていたかしら。
ああ、私は今になってこんな事を考えてしまいます。でも。私はそれでも、後悔なんてひとかけらも無いのです。
本当の愛を、本当の幸せを、古来から信仰という形で追いかけていた私たちの夢を、私は見つけたからです。
私は、生まれてくることのない命のために、その命を殺しました。
それは、紛れもなく私の純粋なる愛で、それを教えてくれたのは、未亜、貴方です。
私は感謝しているんです。未亜が居たから、私は私の愛を実瑠に与えることが出来たのです。
実瑠。ここからが貴方と、貴方を殺した私の話です。
全部書き終えてから、私は母親として責任を取ろうと思います。だから今はまだ、私の密室にしがみついているその恨みを、果たさないでね。
ーー愛に殺された私たちの、小さな密室の話。どうか、全部聞き終えてから、私を許すことなく暗闇で哭いて欲しいの。
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