迷い
「若宮、親御さんと進路を決めたか?」
「あ、えっと、はい、、、」
「そうか、それでどうすることにしたんだ?」
「それは、、、」
正直に言うことが難しかった。本当のところ、まだ進路は決まってない。
私は自分が行きたい進路を親に伝えるのができない。
親は私に期待しすぎている。
父、母、二人揃って医者ということもあり、私には将来医者になってほしいらしい。
別に大した医者じゃないくせに、「お父さんのようになりなさい。」とかばっか言っている。
医者になんかなりたくない。私が本当にしたいことは、料理だ。
医者と料理人だと進路がすごく変わってくる。だから早く親とも話をつけないといけない。
高校三年になると後の進路のことを本格的に考えなくてはならない時期に入る。
そしてある日、進路相談の紙が担任から渡された。
「これの締切は二週間後だ。必ず期限は守れよ。」
先生から色々と説明されている最中、私は紙に目を通していた。
書くことは、高校を出てからの進路、どういう職業に就きたいか、大学、専門学校へ行く場合どの学校に行くか、を書かないといけないらしい。
期限は二週間後、大体決まっている人にはかなりの余裕だと思うが、私には時間があまり無い。親ともあまり進路について話せていないし、色々と話し合わないといけない。
放課後、私は担任の先生に相談した。
「先生、少しお話があるんですけど良いですか?」
「おう、分かった。」
そう言い放課後、先生と私だけ教室に残り話をした。
「それで話ってなんだ?」
「私、進路がまだ決まってなくて、どうしようかなって。」
「迷っているのか?もし迷っているなら、何と迷っているのか教えてほしい。」
迷っているわけでは無いがとりあえず話してみた。
「料理人と医者です。」
「そうか。」
先生はかなり考えているように私に話してきた。
「その二つはかなり進路が変わってくるよなー。進路希望提出は二週間後だけど、今の若宮の状況だとかなり厳しい状況だな。」
「そうですよね、私もそう思っています。」
先生は少し前かがみになり私に質問してきた。
「若宮が今したいことはどっちだ?」
本当は迷いなく料理人と言うはずだったが、この時はなぜか言い出せず、黙り込んでしまった。
「よし、分かった。一度親御さんと話してみろ。それで決まった方を進路希望の紙に書いて出してくれ。」
そう言ったあと念を押すように一つだけ言ってきた。
「但し、必ず自分の考えを言うんだぞ。これは若宮自身の人生を決めることだからな。」
「わかりました。」
そう一言残して私は帰っていた。
夜、晩ごはんを食べている時に二人がいたので私は進路のことについて話をした。
「今日、進路希望の紙を渡されたの。それでそれを書かないといけないの、二週間後までには。」
父が食べながら言ってきた。
「そうか、お前は医者になるんだろ?そう書いて明日もう提出しなさい。早く出して悪いことはないからな。」
やっぱりこう言うと思った。母の方を見ると、父の話を聞いて頷いていた。
ここで私は正直に言うことにした。
「その事なんだけど、私は医者じゃなくて料理人になりたいの。」
それを聞いた父は、動かしていた箸を止めた。
「お前、それ本気なのか?」
「うん、私は本気だよ。」
「はぁ、ダメだ料理人なんて。」
呆れたように父は言い、続けて言った。
「いいか?料理人なんて一筋縄ではいかないんだよ。料理の才能を認めてもらえないと一生下っ端のままだし、店を出せたとしても客が入らなかったら意味ないんだよ。そうなると、安定した給料などが手に入らなくなる。それとは逆で医者は試験に合格したら、一生安定だし。今後AIに取られる事もないし給料も安定しているんだ。」
父の話を聞いていたが、理解しがたい事が多かったので、自分の思っていることを言った。
「そんなのやってみないと分からないじゃん。結局は自分の娘に自分の考えを押し付けているだけ。確かに一筋縄ではいかない。でも、それでもやってみたいんだよ。娘の意見を尊重してほしい。これは私のこれからの人生を決めることなの。お父さんやお母さんの意見を通す機会じゃないんだよ。」
そしてお母さんはキレた。
「いい加減にしなさい!私たちはあなたに安定した職に就いてほしいから言ってるのよ。そろそろ気付きなさい。」
「お母さんたちも気付いてよ!私の気持ちなんて何も分かって無い!これは私の人生なの。」
私は反論した。
もうこの場にはいたくなかったので、さっと夕食を済ませ自分の部屋に行くことにした。
私は自分の部屋で泣いた。こうも理解してくれない親がいるんだと思った。自分の意見を自分の子供に押し付け、後に自分で自分を褒めるためだけに言っているだけなのだ。
今日はもう話す気は無いので、料理人の本を読んで眠った。
翌朝も話したくなかったので早く起き自分で弁当におかずを詰め、支度をして、学校へと向かった。
早速、昨日貰った進路希望の紙を出している人が数名いる。まぁこの時期なのでもう決まっているのは当然なことだと思った。
休み時間に放送がかかり、私は先生に呼び出された。おそらく進路のことだ。
職員室に入ると、先生が「入って」と言ってきたので先生がいる所に向かった。
「若宮、親御さんと進路を決めたか?」
「あ、えっと、はい。」
「そうか、それでどうすることにしたんだ?」
「それは、、、医者になることにしました。」
言ってしまった。自分が思っている逆のことを。
「そうか、医者かー」
そう先生は言った。
すると「若宮、それ本心じゃ無いな?」と言ってきた。
何故か感づかれた。もうバレたので正直に言うことにした。
「はい、本当は料理人になりたいです。だから今までそれに関連した本を読んだり、色々と料理を作ってみたりしたんです。でも親が医者になれってうるさくて、昨日口論になったんですよね。それでもう面倒くさくなったので、こう言っちゃったんです。」
「よく言った。じゃあ今日もう一回自分の気持を伝えてきな、そしたら納得してくれるだろう。それでもダメだったら、俺が説得しに言ってやる。」
「分かりました。有難うございます。」
非常に頼もしい先生だなって思った。このまま気付いてくれなかったら本当に医者になるところだった。
今日の夜、自分の気持を正直に伝える。
夜、いつも通り親二人がリビングにいる。このタイミングしか無い、そう思い話そうとした瞬間、父が言ってきた。
「昨日は悪かった、よくよく考えればお前の人生だしお前が決めるべきだったな。俺もそうだった、今のお前と同じくらいの時親父の反対を押し切って医者になったんだった。だからもうお前のしたいことをしなさい。金はしっかりと俺が出す。すまなかった。」
その話を聞いて、嬉しさと驚きの感情が出た。昨日あんなに反対していた。父が次の日になってからは賛成してくれたからだ。
昨日、怒った母も賛成してくれた。
そして翌日、学校に提出することが出来た。先生に渡すと少し紙を見て、グッドサインを私にしてきた。
高校を卒業して、私は調理師栄養施設に入学後、試験に合格し、無事に料理人になることが出来た。
結果的には、自分の店も出すことができ、そこには高校時代の友達、担任の先生、親も来るようになった。全国的には有名になることは無かったが、なかなかに繁盛はしている。
自分の夢を持つことは素晴らしいことだ。
そしてその夢は誰も否定してはいけない。
誰かになんと言われようが、決めたのならとりあえずやってみるのが大事なことだ。
失敗に終わっても、「何かしらの形で次が来る」そう思えば良い。
どんなに道に迷っても良い、最終的に正しい道を歩けば良いだけなのだ。
生きる日々を抱きしめて。 みむで @kinomo888to
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