第5話
(あぁ!言っちゃった!言っちゃった!)
街灯で照らされた薄暗い道を、両手で顔を多いながら走る。
もう終わったことなのに、心臓の音が鳴り止まない。
顔は熱く、足元も
家に着いて、すぐさま2階に上がってベッドに飛び込む。
さっきの事がまだ忘れられない。
最初はてっきり振られると思ってたけど、まさかまだチャンスをくれるなんて!
私はベッドに横たわったまま、浮き上がる気持ちを抑えるように足をばたつかせる。
起き上がり、すっかり飲み干したカフェオレを机の上に置き、じっと眺める。
「…颯太くんと夏海にも感謝しなきゃ。」
私はため息混じりに呟く。
もちろん嬉しいため息だ。
実は、今日のカラオケは颯太の思いつきではなく、私の提案だった。
ずっと好きだった龍太郎に告白する為、
その作戦会議中に突然龍太郎が割り込んできたのにびっくりしたけど。
「遥ー?先に風呂入っちゃいなさい!」
「はーい!」
1階から母の呼ぶ声が聞こえたので、私は返事をしてリビングに向かう。
リビングに着くや否や母が
「遥、何か嬉しいことでもあったの?ずっとニコニコしてるわよ。」
と尋ねてくる。
薮から棒に突っ込んできた母に思わずたじろぎ
「え、えぇ?!何も無いけど…?」
「ほんとぉ〜?あ、もしかして龍太郎くんと何かあったとか?」
「えっ…」
私と龍太郎は幼なじみなだけあって、両親も仲が良い。
それにしても私が龍太郎のことす、好きだって言ったことないのに。
「あっ、図星でしょ〜。」
「ふ、風呂入ってくるから!」
「はいはい。」
ニヤニヤする母を後に、風呂に直行する。
湯船に浸かると、またさっきの出来事を思い出してしまう。
「龍太郎、今日もかっこよかったなぁ…」
湯船に沈みながら、そんな事を考える。
龍太郎は、とてもかっこいい。
私のフィルターがかかってるだけかもしれないけど。
あいつはもともとバスケ部で短髪だったけど、高校に入ってからは髪を伸ばし始め、最近は流行りのセンターパートで髪型を統一している。
二重で困り眉の龍太郎からは、いつも優しい雰囲気が漂い、高校に入ってからは何人かの女子に告白までされているらしい。
それでも、まだ彼女は作って居ないようだけど。
そんなことを考えていると、いつの間にか全身が湯船に浸かり、あやうく溺れかけてしまった。
私は急いで立ち上がり、のぼせない内に風呂から上がることにした。
風呂から上がると、スマホに1件の通知が来ていた。
ドキドキしながらスマホを見ると、やはり龍太郎からのメッセージだった。
まさか龍太郎から連絡をとってくれるなんて。
私は近くにあったクマのぬいぐるみを抱きしめ、ゆっくりとスマホのロックを解除する。
「遥、さっきの話本当だよな?」
龍太郎からのメッセージはこうだった。
私はすぐに返信をする。
「そうよ」
……あ、ちょっと冷たかったかな?!
帰った時と同じように、足をバタバタさせながらスマホが鳴るのをじっと待つ。
5分も経たずに、龍太郎からの返信は来た。
「そっか。それにしても遥が俺の事好きなんてなー全然気づかんかった。」
「そりゃー隠してたからね」
「……なんかごめん。」
「なにが?」
「遥のこと、キープみたいにしちゃって。」
「はぁ〜、さっきも言ったけどもう気にしてないから。」
「あっそ、じゃあいいや」
「ちょっと!」
メッセージではちょっとした喧嘩みたいになってても、やっぱり好きな人と連絡をとりあうのは楽しい。
きっとこの場に龍太郎が居たら、恥ずかしくてこんな話出来ないし。
多分今私が鏡を持ってたら、私の顔はすごい緩んでるんだろうなぁ。
「……電話したいなぁ。」
ふと、そう呟く。
でも付き合ってないのに電話に誘うなんて、そんなの私が龍太郎の事好きなのがバレそう…ってもうバレてるんだった。
でも今龍太郎の声聞いたら幸せで死んじゃいそうだし、もし誘って断られたら気まずいし…ってああああ!!
深呼吸をして一旦落ち着くと、胸に抱えていたぬいぐるみが今にも死にそうな表情で顔と後頭部がひっつきそうになっている。
……抱きしめすぎた。
私はパッと手を離し、ごめんねと言いながらぬいぐるみを撫でる。
よし、今日は一旦電話をやめて様子を見よう。
今日は興奮して寝れそうにないから、気持ちを落ち着かせる為に明日の準備、課題、予習をしよう。
もう今日は限界。
これ以上龍太郎と話してたら明日話す話題が無くなるかもしれないしね。
私はスマホを手に取り、
「私はちょっと勉強して寝るから、もうスマホの電源切るわね。」
「え、遥勉強する時にスマホ触らない系女子?」
「当たり前よ。勉強するんだもの。」
「すごいな、俺はいっつも気づいたらゲームしてるよ。」
「そんなんだから赤点ばっかり取るのよ。」
「…お前、こんな夜まで悪態ばっかりつきやがって」
「私は真実を言ったまでよ。」
「…まぁいいや。遥、おやすみ。」
「…え?」
「…ん?」
「い、いや、おやすみなさい。」
びっくりした。まさか龍太郎からおやすみって言われるなんて。
まさか、龍太郎も実は私の事好きだったり…?
って、じゃあもう付き合ってるか。
まぁ、今度龍太郎と一緒に図書室まで勉強ってのも…良いかも知れないわね。
私はいつも、成績1桁を維持できているが、龍太郎は少し頭が残念なので、毎回留年と進級の狭間なのだ。
私はスマホの電源をおと…そうとしたが、つい浮かれて龍太郎との過去のメッセージを見返していたら、すっかり眠くなってしまい結局勉強をすることはなかった。
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