第8話 テスト

「ここが僕らの家だよ」


 林での自己紹介を終えると、ピグーは助けて貰ったお礼を言ってそそくさと帰って行った。

 行くところのない俺にネライダは家においでよと言ってくれた。

 フォニはすんごい嫌そうに膨れっ面でネライダを睨んでいたが、俺が料理ができることを知ると、思いあぐねた結果渋々ではあったが受け入れてもらえた。


「すごい広いな。それにめっちゃ綺麗だ……」

 家は新築の木のいい匂いがする。二人で暮らすには十二分に大きい。壁のところどころに飾られている銃が気になるが、教会育ちの俺にはまさに憧れの家って感じだ。

 ネライダもフォニも俺と同じ15歳だというので本当に羨ましい。俺もスズとこんな風に暮らせたら良いのにと憧憬の念を抱いた。

 

『汚さないでよ』

「は、はい気をつけます……」

 フォニの赤く光るサングラスに冷や汗をかく。

「まあまあ。フォニちゃんは本当にすっごい優しいから心配しなくて大丈夫だよ。自分の家みたいにくつろいでいいからね!」

「ネライダァアア。ぐすっ……お前なんていい奴なんだ」

 俺はネライダに抱き付かずにはいられず、泣きながらイケメンに頬擦りする。

『キモい早く飯作れ』

 フォニは口が、いや、サングラスが悪く俺にはとてもきつい。ネライダがいなければ今頃蜂の巣にされてたかもしれない。


「僕もお腹すいちゃったな。コガたんお願いしてもいいかな?」

 いつのまにか定着しているコガたんと言うあだ名も気に入っている。

「もちろんだ!ちっさい頃から兄弟の飯作ってたんだ任せとけ!」



 ネライダはフォニを優しいというが、好き嫌いは別の話だ。

 フォニはネライダのことが大好きなのだろう。ここにくるまでに幾度となく愛してることが伝わってくる光景を見てきた。そして俺は愛する人との時間を邪魔するキモいやつと思われていると思う。これは美味い飯を作って挽回しなければならない。

 何としてでも胃袋を掴むんだ!


 

 俺はひとまず冷蔵庫を開ける。

 何でも使ってくれて構わないということなので遠慮せずに食材を駆使してご馳走を作ろう。

 

「…………………………」

 

 俺は冷蔵庫の中の光景に凍りついてしまった。この家の冷蔵庫は開けた人間を凍らせる力を持っている。

「ん?どうしたの?」

『お腹すいた( ̄▽ ̄)』

「ん?どうしたの?じゃねーよ!!何だこの中身は!」

 

 冷蔵庫の中には、お菓子やジュースにインスタントラーメンと調味料、それに銃が入っていた。

 

「コ、コガたん?」

「ああ!?何驚いてんだよ!驚きたいのはこっちだよ!なんでお菓子がこんなに冷蔵庫に入ってんだよ!子供か!それにインスタントラーメン舐めんなよ!冷やさなくても腐んねーから!てかそんなもんどうでもいいわ!銃!?何で?来た時から思ってたけどこの家あちこち銃だらけじゃん!壁に銃!引き出し開けて銃!トイレに銃!怖すぎるんだよ!壁に掛けまくってるのは100歩譲って冷蔵庫の中は意味わかんねーだろ!冷やし銃器始めましたなのか?これで飯作れって?それ作らなきゃ俺追い出されんの?それとも撃ち殺されんの?スーパー鬼畜deathテストか!」


 この島に来てから起きる数々の理解不能の出来事で積もりに積もっていたものがとうとう爆発してしまった。

 

『まだ引っ越してきて二日だもん。銃は料理しないでよ( *`ω´)』

「わかっとるわ!銃なんて料理できるか!むしろ『実は食べれる銃なんですこれ』ってなってくれよ!俺が料理されんのかなって生きた心地しないんだよ!それに引っ越してきて二日?もっと怖いから!てか俺ってこんなにツッコミキャラなの!?」

「あはは!コガたん面白いね」

『うるさいなぁ早くご飯つくてよ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾』

「くそおおおお」


 

 フォニはツインテールを解いた腰ほどまでの長さの髪をネライダに櫛でとてもらいながらく早く早くとせがんで来る。こうなったら殺されないよう作るしかない。俺は簡単にお菓子とインスタンラーメンで子供が好きそうな料理を十分ほどで何とか作り上げた。幸い欲しい調味料は一式あったので何とかなったと思う。いや、思いたい。


「はい、どうぞ……」

「えっ、もうできたんだ!コガたんすごいね!いただきます!」

『味はいかほど』

「……どうでしょうか?」

『うんまあーーー!(*⁰▿⁰*)』

「うん!すごく美味しいよ!!」

「よかったぁ〜」


 


 何とかスーパー鬼畜deathテストに合格した俺はこの家の住民権を手に入れることができた。

 二人は子供のように無邪気に美味しいとご飯を食べてくれた。

 まだ1日も経っていないのに弟妹たちが恋しくなってくる。

 早く鈴を連れて島へ帰ろう。

 


 

「なぁ、二人は大神鈴蘭って名前の女の子知らないか?」

「さぁ?僕は知らないな。フォニちゃん知ってる?」

『知らない』

「そっか……」

 連れて行かれたのは何年も前のこと、考えたくはないが今元気に生きているかも不明の状態だ。諦めるわけにはいかないが鈴の写真なんかないし、というか施設にはカメラなんて良いものはなかった。どうやって探そうか考えているとネライダが気を察したのか優しく尋ねてくれた。

「コガたんはその子を探しにここへ来たの?」

「あぁ。鈴は俺の家族なんだ。て言っても血は繋がっていないけどな。俺もその子も親に捨てられて施設で暮らしてたんだ。悪魔、あぁ、えっと、エネミーに連れて行かれたんだ。生きてるかも分からない」

「そうだったんだ……それは?」

「これは鈴が送ってくれたメッセージ、多分」

「多分?」


 急に現れた俺をここまで親切にしてくれている上に、重い話をしていいものなのかと今更自問自答するも、この二人には聞いて貰いたいという思いも捨てきれない。

 食卓に共に居座るマシンガンを見ながら、俺は人生最大の失敗を思い返し当時の話を続けた。

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