第7話 機械音
ドシンドシンと地響きを立て、ゆっくりと巨体が近づいてくる。背丈やガタイの良さは過去に戦ってきた悪魔を遥かに上回っていた。宝石のようにゴツゴツとした両目を爛々と輝かせ、頭にある大きな瘤の周りには生える乱髪は燃えるように赤い。さらには息を吐くたび、口から火を漏らしていた。
俺はこいつを悪魔辞典で見たことがある。
「吉備冠者(きびのかんじゃ)だ」
吉備冠者は近くにある巨大な岩を片手で易々と持ち上げるとそれに火を吹きかけた。石は見るまに赤くなっていく。
吉備冠者が真っ赤に燃える石を見てニヤリと笑うと次の瞬間、その巨大な岩を軽々と物凄い速度で投げられる。
「やばい!!」
俺は少年を抱え、転がるように間一髪回避する。投球された跡地の草木は焼却され焦げた香りが鼻をさす。岩は島を囲む塀ぶつかると激しい音共に砕け散っていた。
「大丈夫か!?」
「うん、ごめんありがと。それより君、またあの姿になれば勝てるんじゃない?」
少年の額から再び血が垂れる。見た目に反する強い精神で何とか意識を保っている。
「ああ、でも今日はもう無理だ」
手長足長にアーリマンの残りの力を全て使ってしまった。
俺も今にも倒れそうなほど疲弊しきっていて、今更ながら自責の念に駆られる。
生身で戦うことを覚悟しファイティングポーズをとった。
「無理かも知んねーけど、ビビって何もしないのはもうごめんだ」
少年は既に意識を失い倒れていた。
吉備冠者は空に向かって轟々と火をふいた。
吉備冠者の威圧感は、闘争本能をくすぐる力強い太鼓の幻聴を聞かせる。
吉備冠者もやる気十分みたいだ。
お互いが同時に走り相撲のようにぶつかる。
手と手を押し付け合い、力の弱い方が負けの単純な勝負が始まった。
吉備冠者は俺が力で答えるとニヤリニヤリと嬉しそうにしている。
取っ組み合いの状態で火を吹かれたら俺が即死することは悪魔でも分かるはずなのに、吉備冠者は一向にその素振りを見せない。
力のみの殺意が強く伝わってくる。
「……ッ!」
握り合っていた手はミシミシと潰され、手も徐々に開いてきた。
吉備冠者はつまらなさそうに小さい炎混じりのため息を吐く。
本当はもっと強いんだよと言いたいが、体力の限界は有に超えていて、言葉を発することさえ出来ない。
もう無理かと死を悟った次の瞬間。
バンッ!バンッ!バンッ!
テテテテーテーテーテッテレー♪
「……え」
三度の爆音と、俺たちの殺し合いを嘲笑うかのような音楽がこの静かな林に鳴り響いた。
押し返されていた力はなくなり、下には吉備冠者の頭が転がってる。まるで子供がうっかりおもちゃを落としてしまったかのように簡単に転がり落ちた。
吉備冠者は俺を輝きが徐々になくなる両目で睨みつけ、首だけの状態にもかかわらず激しく怒鳴り声をあげた。
火は出てないがあまりにも大きい声量に圧倒される。
音楽が鳴る方から誰かが歩いてくる。
頭の高い位置で結んだツインテールを揺らしながら、さっきまでのピリついた空気が嘘かの様に、女の子がひょっこりと音楽と共に現れた。明るいクリーム色に、ところどころピンク色のメッシュが入った少女の髪は暗い林にまるで溶け込めていない。なにより付けているサングラスが光っていることが余計にカオスな状況を作り上げている。
「さっきのあんたがやったのか……?」
突如現れた少女は焦るように手にある機会を弄ると太鼓の音は止んだ。
そして親指を立てると……
ピンポーン♪
正解の機械音。
相変わらずの意味不明さに調子を狂わされる。
吉備冠者は突如現れた少女にこれ以上ないほどの咆哮を浴びせるが、バンッという間に黙らせた。
俺は吉備冠者が消えていくのを見ると意識が遠のいていき、気絶した。
**********
「うぅ……」
身体中が痛い。
近くで男二人の声が聞こえる。
「本当にありがとう。君たちがいなかったら今頃……」
「無事でよかった!」
声のする方を見るとキノコの少年と綺麗な顔立ちの男が会話していた。
「報酬は後から渡すね!」
「いやいや!そんなのいいよ!君たちが受け取って」
キノコの少年は手を振り男を拒んでいた。
「あ、大丈夫?」
キノコの少年は俺が意識を取り戻したことに気づき手を差し伸べてくれる。
吉備冠者が倒れた後俺は意識を失った。
その後すぐにこのイケメン【ネライダ・カロシーニ】が駆けつけて治療してくれたそうだ。ネライダの頭の上乗っている小さくてまるまる太った妖精が回復させてくれたらしい。
サングラスの女の子【フォニ・パーネル】は悪魔を倒すとすぐに木にもたれ手持ちのゲームを始めたらしく、今もなお熱中している。
キノコの少年【ピグー・レントロイゼ】は悪魔にやられている人を助けたが、本人は戦う力もないため逃げた結果死にかけてしまったらしい。
「助けてくれてありがとう。あの、俺……」
「君すごいな!能力もなしに力だけで戦ったんだってね!」
「え?」
ピグーはネライダ達に悪魔の姿を黙ってくれていた。
ピグーは微笑んでいた。
俺は好意に甘え黙って笑みを返した。
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