【番外編】星を託すということ


 他者の作品にコメントを書くことは勇気がいる行為だと思う。

 それが、ただの応援コメントでなく、星に紐づけられているならなおさらだ。

 無論、星とはカクヨムにおけるレビューのことだ。星を付ける、とはすなわち自身の目を通して他者の作品を評価することにほかならない。星を付けたリストには、読み手としての小説に対する美意識や評価基準が反映される。作品に対するコメントを添えるとならば、それはただの評価ではありえず、書評や紹介文としての意味を帯びてしまうほどに繊細な行為だ。

 もっとも、私はけして「」であるというわけではない。


 正当に作品を評価し、書評をしたためるためにはフラットな視座が必要だ。

 正確には、視座というよりも、姿が欠かせない。読者である以前に、私たちはひとりの人間であり、個々の経験に基づくバックボーンとしての思想や価値観がある。他者の作品を読んだ時、登場人物や作中の表現に懸隔や抵抗感を覚えることがあって当然だ。とはいえ、頭ごなしに論駁し、読者の感想だからと檄を飛ばせば済むわけではない。

 小説としての評価と、登場人物に対する所感や作者への感情は別物である。


 この点において、私は読者としていまだ半人前なのだと思う。

 書評、まして批評など、とてもフラットな視点でできる自信がない。自主企画の中には、批評企画なども見かけるが、主催者の方々は「目の肥えた読者」であるという自負がおありなのだろう。自分の思想、価値観だけを物差しとしない自制心と克己心。加えて、他者の作品を解釈するための経験値。美意識を涵養し、多くの事物に通じる教養があってこその営みだ。

 客観的な冷静さ、そして中立的姿勢を維持することは困難を極める。

 

 そのため、私はほとんどコメントレビューというものを書かない。

 書評、ないしは紹介文として、不特定多数の目に触れることの重みを感じればこそだ。著者が扱う主題を、正確に汲み取ることができているか。未読の利用者に対し、作品の内容を誤解させるような記述をしていないか。批評とは、原作があってはじめて可能になる二次創作行為だ。原作を尊重し、著作権者である作者の意図や権利を踏み躙ることがあってはならない。

 作品の主題を誤認させるのは、本末転倒というものだろう。


 実際、どれほど配慮をしても瑕疵をゼロにすることは不可能だ。

 私自身は、レビューを書く際には「ご迷惑でしたら削除してください」と作品の応援コメントで声を掛けている。他の利用者に対して、過度な配慮を強いる意図ではまったくない。勿論、健全な討論や切磋琢磨のために委縮させることも本意ではない。私の配慮は、自分のレビューが適当であるかどうか自信が持てないから、という消極的動機で行われているものだ。

 同じだけの配慮を求める意図はないことをご理解いただければと思う。


 さて、前置きが長くなったがここからが本題である。

 私は書評について、原作があってはじめて成立する行為であると書いた。しかし、作品に対する感想、すなわち投稿された応援コメントやコメントレビューも著作物である。無論ながら、他者の作品あってのコメントレビューであることは揺るがぬ事実だ。それでも、他者の作品に対して、個々の解釈を経て言語化されたものは、著作物として尊重されるべきだと思う。

 それは、作者と読者の、二者間に信頼がなければ成立し得ないことだ。


 相互の作品を、敬意をもって取り扱うには信用が必要である。

 最近、そのことを痛感する出来事があった。詳述は避けるが、全文が見える状態で私が寄せたレビューのスクリーンショットが無断で掲載されていた。その掲載については、作者に丁重に画像の削除を申し入れてご対応いただいた。当事者間で、穏当に対処ができたのだとは思う。

 ただ、正直に言えば、精神的にかなりショックを受けた経験だった。


 私の著作物に対する見解は、近況ノートにまとめさせてもらった。

 あくまでも、当記事において取り扱いたい要点とは「コメントレビューを書く」という行為の意義だ。前述の通り、私は他者の作品を「」可能な限り尊重する意思を持って書いているつもりだ。たとえ完璧な配慮が不可能でも、重んじようという意思と試みる姿勢が重要なのだ。読者として、書き手として、細心の注意なく小説を紹介することはできない。

 だから、私は星を「贈る」のではなく「託す」という気持ちで行っている。

 冒頭に説いたように、読み手としての自身の信頼が懸かるからだ。


 それは、作者という相手に自己の信頼を託すことと同義でもある。

 だからこそ、受け取る側の作者も、読者の「著作物」を適切な配慮と敬意をもって扱う必要があるのではないか。投稿者の尊厳や権利と同様に、書評とは言えないまでもコメントとして出力された著作物が尊重されることを切に願う。それは、読者と作者の相互が、最大限の敬意を向け合わなければ不可能だ。二者間の信頼、信用というものがなくては成り立たないのだ。

 せめて、「星を託される」人間であるよう努めたいと強く思う。

 

 相手の主題、その題材の扱い方を文章とともに紐解くこと。

 主観的な所感と、小説としての評価を混同しないよう自制すること。

 今後も、この要点を、未熟ながら可能な限り心掛けて星を託していきたい。


 

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