慷慨する敗残者
どの媒体を、どの掲載先を選ぶかは、作品の評価を左右する。
けれど、サイト内の評価が、常に作品の価値を保証するとは限らない。主な利用者層と合致していれば、それなりに跳ねるだろうし、逆に需要がないジャンルであれば低迷する。要するに、利用者の比率の問題で、母数に対して占める割合が多ければ反響を得やすいという話だ。実際、カクヨムでは、純文学系のジャンルは桁数がかなり下がる印象が強い。評価されている、と思ったものでさえ、星の数は3桁で収まってしまうことがほとんどだ。
逆に、ランキングの上位では、異世界ものなどが5桁の星を掲げている。
評価基準とは、可視化された数字に準拠するものなのだろう。
正直、私の作風は、大衆受けするとはまったくもって言い難い。
とはいえ、カクヨムでの評価が、作品の価値まで決めるわけではないだろう。当然ながら、数多ある投稿サイトはそれぞれ利用者層が異なる。カクヨムで「ウケる」ものが、他のサイトでも「ウケる」とは限らないし、逆の場合もあり得ることは想像に難くない。私自身、過去に別サイトで受けた作品が、カクヨムではほとんど読まれなかったこともある。自慢ではないけれど、総閲覧数が1万を超えていたし、作品のブックマーク数もそこそこにあったと記憶している。
また、さらに別のサイトでは、1年間で3pvしかつかなかったこともある。
私は別に、ウケるものが書きたいわけではない。
他人の需要よりも、自分が読みたいものを地産地消するために書いている。
子供の頃は、読書があまり好きではなかった。周囲の人間、特に親や身内と作家の趣味が合わなかったせいもある。彼らは日本の現代文学を好み、山田詠美や吉田修一、橋本治や姫野カオルコといった書き手を本棚に並べていた。とはいえ、昔の私が触れるぶんには、贅沢な話だけれども「つまらないな」という印象ばかりが強かった。筋金入りの人間嫌いで、人間を描いた作品を読む度に、「他人の身の上話になんか興味がねえよ」と思っていたのである。
(愛読家、愛好家の皆様には、謹んでお詫びを申し上げる所存だ)
それでも、年齢を重ねて、自分の需要を自分で満たすことを覚えた。
無論、実際には、面白いと思える作家にも出会っていた。読書という行為を、苦痛ではなく快楽を伴うものとして受容できるようになった。学生の頃、熱心な時には、月に20冊程度は読んでいたこともある。毎日1冊、という無茶な目標を立てていた時期さえあった。当時の趣味と、現在の趣味嗜好は違うけれど、血肉になったことは疑いようがない事実だ。だが、自作の小説であれば、完璧に自分の嗜好と合致させられるのではないか。
私は次第に、読書よりも執筆という行為を好むようになった。
正確に言うなら、便宜上「小説」という形態に分類される文章の出力行為にハマった。現在の文壇、文学界においては、小説には主題が必要なものとされる。しかし、私は別に、何某かの主題のための執筆を望んでいない。極論を言えば、文章の質さえ高ければ内容は問わない。小説以外の、文章以外の形態に、代替置換可能な要素にはあまり興味がないというわけだ。
口語的な、過度に装飾的な、「文章で構成された作品」が好きなのだ。
そして、その趣味嗜好は、大衆のなかでは少数派にあたるらしい。
現在、出版業界では、メディアミックスが横行している。
原作はネット小説でも、小説という形態では売り上げが見込めない。だから、別形態に翻案され、コミカライズやアニメというかたちで包摂的に利益を出す。ネット小説とは、その利益を生み出す源であり、「小説でなくなること」を前提として生産されるものだ。私が頑なに「公募に興味がない」と主張するのは、小説以外の形態であることを望まないからでもある。
小説以外の、言葉以外に置換できるものであってはならない。
私は、小説家ではなく、「文章作品」の制作家であり続けたいのだった。
だが、どうやら、私の感覚は狂っているらしい。
作品の価値はおろか、発表の場すら不要であると見做されているようだ。
題名は忘れたが、ある作品のコメント欄で、評価されない作品の投稿を否定する旨の主張を見かけた。誰からの反響も得ない作品ばかりを書くなら公開する必要もない、というご意見らしい。別に、「評価されない作品を投稿している」からといって、利用規約に違反しているわけでもない。作品の評価はおろか、投稿する権利すら否定されるのは、いくら斜に構えていても腹が立つことではある。もっとも、どの水準から「評価されている」と判断するのかが難しいところだ。星の数か、登録者数か、数値化された評価に対する絶対視を慷慨せずにはいられない。
私は、哀れな少数派であり、敗残者と呼ばれるべき人種なのだろうか。
読まれるため、主題を設けるよう心がけてはいるのだが。
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