〖邦訳〗ストーン・ブッチ・ブルース

17 頭がくらくらし、めまいがした。

胃がしめつけられた。内臓がはちきれそうだった。吐きそうだった。最悪だったのは、作業中の射出成形機から離れられなかったことだ。スイッチを切れば、プラスチックが機械中で固まってしまうからだ。機械は絶え間なく動き続け、その反復音は成形部門で働く僕らの音楽だった。

　僕は工場長を探したが、現場にはいなかった。仕事に集中しようとした。左手のスキッドに置かれたプラスチックペレットの入った樽を確認し、吸引ホースを少し深く押し込んだ。機械がペレットを加熱し、小さなプラスチック部品を飛び出させると、蒸気が噴出した。ゴムが焼けたような悪臭がした。

　物質より心。悪臭のこと、胃のこと、工場内の熱く淀んだ空気のことを考えないように自分に言い聞かせた。物質が勝った。機械の側面と油まみれのコンクリート床全体に僕は嘔吐した。

　ボルトが駆け寄ってきた。彼はセットアップ・クルーのリーダーだった。僕が朝食を吐き出してるあいだ、彼は僕の肩に手を置いた。「大丈夫、大丈夫だから」と彼は安心させた。僕は何よりも恥ずかしかった。

　僕は手の甲で口を拭いた。ボルトは青いワークチノパンの後ろポケットから油まみれの布巾を取り出し、僕に手渡した。「きみはこのシフトで3人目のゲロ吐き男だ」

「今日はどれくらい暑いと思う？　ボルト」「43度」

　僕は口笛を吹いた。「それはおそらく鼻の右だ。どうやって？」

　ボルトは笑った。「壁の温度計を組み立てた。大丈夫か？」

「ああ」僕は羊のように笑った。吐いたせいで臭いがひどくなっただけだった。

　ボルトは僕の肩を叩いた。「ゲロを吐くのは恥ずかしいことじゃない。毎週土曜の夜に自分でやっているんだ。俺はこのクリーンアップにメンテナンスから男の一人を送ってる」

「ねえ、ボルト、僕らが作っているこれらの部品って何？」ボルトは肩をすくめた。「コンピュータのための何か」

　僕は首を振った。「それは僕の起きてる一日の半分を過ごすために奇妙なことだ何かを作ると、僕もそれが一体何であるかを知らない」

　ボルトは笑った。「それはコンピュータを行うために何かを持って喜んでる。俺らはおそらく、両方の行の下に仕事を持っていることを意味する」彼は歩き出し、躊躇した。　

　ボルトは振り返り、僕の肩に手を置いた。「聞いてくれ」彼は言った。「もし興味があるなら、出荷と受け取りですぐに仕事が開けるかもしれない。少なくともそこで息はできる。いつからここで働いているんだ？」

　考えてみた。「ほぼ1年。でも最初の3カ月は臨時職員だった」

　ボルトはうなずいた。

「俺は工場の周りを回る。きみのために耳を傾けておくよ」彼は僕の肩を叩いて立ち去った。

　数分後、ジミーが僕の嘔吐物を片づけにきた。ジミーはモヒカンだった。他のメンテナンス・ギャングやセットアップ・ギャングはみんな白人だった。

「掃除を手伝おうか？」僕は彼に尋ねた。「結局のところ、僕の汚物なんだ」

　ジミーは首を振った。「ただの仕事だ」

「ボルトはマシンを修理するのが仕事なのか、それとも掃除が仕事なのか？」

　ジミーは不審そうに僕を見たが、肩をすくめた。「ボルトは悪いやつじゃない。まともな仕事を投げてくれるんだ」

　昼食のパンチアウトを済ませると、工場の入出庫口まで歩き始めた。工場は大きなスーパーマーケットほどの大きさだった。僕はここの従業員たちを知らなかった。別世界だったし、それに、一人で機械に向かうという安全な場所から離れるのが怖かった。僕が入出荷部門に着いたとき、従業員たちはすでに昼食に出かけていた。僕は開け放たれた搬入口に出た。気温は30度低かった。夏の空気は新鮮だった。

　僕はこの工場に残りたかった。バッファロー郊外のトナワンダでは、誰も僕のことを知らなかった。でも、あの機械で働くと気分が悪くなった。リスクを冒してでも、この仕事に入札する価値があったのかもしれない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　□□□

　スコッティは少なくとも30歳は年上だったが、彼なしでは最後の箱を吊り上げ、トラックのトレーラーに収めることはできなかっただろう。この荷物を積んだ後、僕の腕はまるでゼリーのようだった。スコッティは風も感じなかった。

　スコッティは僕にこう尋ねた。

「まず息していいか？」

「この仕事のリズムはすぐつかめるよ。一生懸命働いて、それからゆっくりする。もうすぐお昼だ。さあ、体を洗いに行こう」

　一緒に男子トイレに入り、僕は深呼吸をした。工場の反対側にあるトイレとそっくりだった。部屋の中央には巨大なコンクリートの円形シンクがあった。スコッティと僕はそれぞれシンクの真んなかにある粉石鹸ディスペンサーを叩き、フットペダルを踏んだ。

「ロッカーはまだか？」スコッティが僕に尋ねた。僕は首を振った。「さあ、ついてこい」

　スコッティはロッカールームの雑談を黙らせた。

　今朝、何人かがジェシーに会った。彼はオペレーターから移籍してきたばかりだ。

スコッティとウォルターを除けば、ほとんどが20代後半から30代前半だった。ウォルターは僕の手を握った。「やあ、息子よ。ここで長く働いてるのか？」

　僕は首を振った。「１年だ」

　彼は笑った。「以前はどこで働いてた？」僕は肩をすくめた。「その辺りだ」ウォルターとスコッティは顔を見合わせた。

　僕はホッとした。「俺はアーニー。こっちは相棒のスキッズ。以前はオペレーターだった」スキッズは彼にタオルを投げつけた。「お前は煙草を吸うから血を吐いたんだ、バカ野郎」アーニーはスキッズをヘッドロックでつかむと、スキッズの頭皮を指の腹で往復させた。

　ポニーテールの青年が僕の手を握った。「パットだ」

　アーニーは笑った。「パティにはまだ会ってないの？」パットはアーニーに顔を向けた。「黙れ、黙れ。僕は良心的兵役拒否者だったんだ」

　スキッドは胸を張った。「俺はベトナムにいた。おい、ジェシー。徴兵されたのか、それとも入隊したのか」

　頭に血が上った。僕は、くだらない質問から私を守ってくれる騒音レベルの成形部門に戻りたかった。「行かなかったよ」と僕はつぶやいた。

　アーニーはうめき声を上げた。「もうひとつ。おとぎ話でも聞かせたのかい？」

　僕は懸命に考えた。「免除されたんだ」ウォルターが割って入った。「子どもを放っておけ。ロッカーはあるか？　これを使ってくれ」

　アーニーは言った。「そのロッカーはちょっとスパイスが必要だな」僕は彼が何を言っているのかわかってた。他の男たちはみんな、ロッカーのドアにピンナップのポスターを貼ってた。「角のレストランでカレンダーを買え。給料日にみんなで行くんだ。オーガストさんがタマを焼いてくれるよ。おい、ウォルター、お前も買っとけよ」

　ウォルターはゆっくりと首を振った。「写真が必要な男もいれば、本物を手に入れた男もいるんだ、そうだろ、ジェシー？」

　僕は微笑んだ。「前のロッカーからピンナップを持ってきたよ」アーニーは壁の救急箱から絆創膏を2枚手渡してくれた。僕はその絆創膏で、昔使ってたノートンのカラー雑誌広告を貼った。

　パットがささやいた。「きみのよりジェシーのに乗りたいよ、アーニー」

　昼食の笛が鳴った。スコッティを探したが、もういなかった。「おい、ウォルター、スコッティはどこだ？」

　ウォルターは肩をすくめ、ボトルを口に運ぶ真似をした。「彼は大変なんだ。奥さんがガンで死にそうなんだ。男たちがオマンコの話をし始めると、彼は離れないんだ」

　　　　　　　　　　　　　　　　□□□

　夏の終わりには、僕は男の一人とみなされていた。になっていた。唯一の人間関係だったからだ。

　金曜日の昼休み、ボルトが僕を呼び止めたとき、僕らは角のイタリアン・レストランに向かっていた。「フランキーって知ってる？」

　僕は顔に血が上るのを感じた。「彼はどんな人？」

　ボルトは首を振った。「あれは彼じゃねえ。ブルダガーだ。彼女はバインダーで、お前と一緒に働くために使用される」――お前ら二人は一緒にストライキにあった、彼女は、お前が組合と多くの仕事をしたと言った。

　フランキーがボルトに話した そうに違いない。いま辞めるべきかどうか考えた。埠頭に出て車道に飛び降り、自転車まで歩き続ける。「フランキーとはどこで知り合ったんだ？」僕はボルトに尋ねた。

「彼女はセカンドシフトだった。月曜日から日勤になる。彼女はオペレーターだ。彼女はお前がいい人だと言った」

　僕は信じられずに瞬きをした。「彼女はそれを言った？」ボルトはうなずいた。「彼女はお前が良い労働組合員だ」と言った。

　僕は安堵して笑った。「どうして僕がここで働いてることを彼女は知ってたんだ？」

「お前が駐車場から出るのを見たんだ。彼女はお前の友だちか？」ボルトは僕に尋ねた。

　ボルトはドックに向かった。「お前も昼食に来るか？」

　僕は首を振った。「俺は一緒に、先に行く」

　それは一人でいるための信念だった。僕はウェアハウスに迷い込み、積み重ねられたスキッドに座ってボルトの爆弾発言について考えた。

　フランキーが日勤に入ってきたんだ。それは彼女が僕を露呈してる可能性が実現するために僕を怖がらせた。でも、どうやら彼女はそうじゃなかったようだ。フランキーはシャープだった。彼女はすぐにスコアを把握したに違いない。

　僕は興奮した。もう一人のブッチと働く！　たまには一緒に遊ぼうよ。彼女は昔の仲間たちの居場所を知ってるかもしれない。フェムを紹介してくれるかもしれない。

「おい、若造」スコッティが僕の思考を中断させた。彼は床に座り、スキッドに寄りかかっていた。スコッティはジャック・ダニエルのボトルの栓を抜き、僕に差し出した。

「ありがとう」僕はそう言って一口飲んだ。

　スコッティはボトルを唇に当て、3回飲み込んだ。僕らは黙って座っていた。「結婚したのか？」僕は首を横に振った。

　彼は頭を胸に下げた。「妻は本当に病気なんだ」彼は両手で目をこすった。彼は顔を明るくした。「妻の写真を見せたことがあったか？」

　僕は首を振った。彼は薄くて滑らかな革の財布を取り出した。「これだよ。俺の女だ」

　僕は笑って口笛を吹いた。「きみかい？」

　彼は微笑んだ。「そうだよ。昔はきみみたいに若かったんだ。僕の人生はこれからだったんだ」

　僕らは笑った。でも僕が再び彼を見たとき、彼の目には涙があふれていた。彼の声はかすれていた。「彼女より先に逝きたいよ。ひどいことを言うのはわかってる。誰が彼女の面倒を見るんだ？　でも、そのときがきたら、彼女を手放すのは耐えられないと思うことがあるんだ」

　彼はまた頭を下げた。僕は手を伸ばし、彼の背中にそっと手を置いた。そんなことはなかった。

「きみはまだ若い。こんな仕事から抜け出せないでくれ」

　僕は肩をすくめた。

　スコッティは首を振った。「本当の仕事だよ。シボレー工場で20年働いた。UAW［United Auto Workers：全米自動車労働組合］カードを手に入れたんだ。工場で20年も働いたのに、解雇されたんだ。信じられるか？」

「シボレー？ボルトと一緒に働いていたのか？」

　スコッティはうなずいた。「ああ。でも俺ほど長くはいなかった。彼はしばらくハリソンで働いてた。そこでも解雇されたよ」

　ボルトは僕に興味を持った。「彼は同じ組合にいたのか？　俺たち古株はみんなUAWだ。俺は組合員だ。組合員はみんなUAWだ。組合に入らなきゃだめだ、若造。組合がないなら、組合を作るために戦え」

　僕は笑った。「すぐには無理だろうな」

　スコッティは肩をすくめた。「まあ、わからないさ。組合が必要だ。俺は年寄りだから無理だ。若いきみたちがやってくれ」

　僕はため息をついた。「組合があればいいんだけどね。でも、仕事を続けたいんだ、スコッティ。ところで、ボルトについてはどう思う？　彼はいいやつだと思う」

　スコッティは僕の鼻先で指を振った。「気をつけろ。ボルトのために。彼はもう本当に俺らのひとりじゃない。彼は一部ギャングの監督で、一部セットアップの男だ。俺の言葉に注意しろ。いざとなると、彼は知らないだろう。彼はどちらの側にいる。彼を信用するな」

　僕はボルトが好きだったので、彼の警告は僕を失望させた。でも、僕にとって幸運なことに、僕は本当に誰も信用していなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　□□□

　月曜の午後をパンチアウトしたとき、肩に手を置かれたのを感じた。フランキーが僕を振り向かせた。

「やあ、フランキー。聞いてくれ、話があるんだ」

　彼女は人差し指を唇に当てた。「大丈夫、わかってる」

　僕は駐車場まで彼女を追いかけた。「きみに会えて本当にうれしいよ、フランキー。ただ怖いんだ。僕はここで良いことをやっている。新聞はまた不景気だって言ってる」

　フランキーは歩みを止めた。「わかるよ、ジェス。 わかると思わないか？」

「どうやってここまで生き延びたの？」僕は彼女に尋ねた。彼女は肩をすくめた。「自分の家を買うお金を貯めるまで、ここトナワンダで両親と暮らしているんだ。悪くないよ。週末はガールフレンドの家に泊まってるんだ」

　僕は口笛を吹いた。「ガールフレンドがいるの？　ラッキーだね」フランキーは唇をすぼめた。車のクラクションが鳴った。

「僕の彼女を知ってるだろ、ジェス。俺とジョニーは付き合って1年になるんだ」彼女は微笑んだ。「歌の通りさ」

　僕は思わず足を止めた。「ジョニーって誰？」

　フランキーはため息をついた。「ジョニーのことは知ってるだろう。ストライキの前は一緒に働いてた。みんなでソフトボールをしたんだ」

　僕は首を振った。「僕が覚えてるジョニーはブッチだけ」

　フランキーは姿勢を大きくした。「ああ、まさにその通りだ。彼女はあそこの車のなかで俺を待ってる」

「おい、ジェス」車からジョニーの叫び声が聞こえた。

「おいおい、冗談だろ」僕はフランキーにささやいた。彼女は腰に手を当てた。「冗談に見える？」

　僕の口は開いたままだった。僕は首を左右に振った。「正直言って、フランキー、僕には理解できない。理解できないよ」

　フランキーは苦笑した。「理解する必要はないよ、ジェス。でも受け入れないと。受け入れられないなら歩き続けろ」

　まさにその通り。対処できなかったから、ただ立ち去った。

　その後、フランキーを避けるのは難しくなかった。僕らは工場の反対側で働いていたからだ。僕は午後になると、工場の反対側で働いてたフランキーとは距離を置いた。

　二人が恋人同士であることを考えれば考えるほど、僕は動揺した。二人がキスしてるところを想像すると、たまらなかった。まるで男同士のようだった。まあ、ゲイの男二人なら大丈夫だろう。でも尻軽女が二人？　どうして二人が惹かれ合うんだ？　ベッドではどっちがフェム？

　僕はフランキーとジョニーに夢中になっていた。水曜日の朝、僕はあまりに深く考え込んでいたので、この部署に男は僕とスコッティしかいないことに気づかなかった。スコッティが男子トイレの方に合図をした。「そこに行ったほうがいい」と彼は言った。

「何だって？」彼はただ男子トイレのほうにうなずいた。ドアを開けたとき、僕は何を期待していいのかわからなかった。男子トイレには、僕の部署にいた人たちや、見覚えのない人たちがいた。ボルトが最初に話した。「我々はあなたを待っていた」

　ボルトは腹いせに僕のことを話したのだろう。彼女を信用しないほうがよかった。僕らがどんな誤解をしたとしても、それは僕らだけの問題だったはずだ。彼女のことは後回しだ。いま、僕はひどく劣勢だった。

　ボルトは手を伸ばし、僕に向かって移動した。僕は壁に向かって後退した。僕のこめかみは血でドキドキした。ボルトは僕の肩をつかんだ。僕は彼の手を押しのけた。僕は追い詰められた。

　ウォルターは僕のほうに近づいてきた。「落ち着け、息子よ。話がしたいだけなんだ」

「何について？」ボルトとウォルターは顔を見合わせ、僕から離れた。

「組合についてだ」とウォルター。僕は混乱して首を振った。「アーニーの妻は繊維労働組合が組織した工場で働いている。きみの立場を知りたいんだ」

　僕は落ち着きを取り戻すのに苦労した。「これは組織化活動ということか？」ボルトは肩をすくめた。

　ボルトは肩をすくめた。「いままで話し合ってきた。労働組合のオルグをここに呼んで、総会を開く必要がある。このクソが爆発せずに長くは続かない」

　この仕事はそれほど悪い仕事には思えなかった。「どんな不満があるんだ？」と僕は尋ねた。

　アーニーは言った。「でも、他の日は でも他の日は休めるんだ」僕はうなずいた。

　スキッズが答えた。「確かに、彼らは俺たちに時間外手当を払いたくないからな」

　ウォルターもうなずいた。「二人の人間が同じ機械を働かせても、給料は違う。現場監督にへつらうかどうかで決まるんだ」

　アーニーはこう付け加えた。「自分が何を吸ってるかなんて誰もわからない。それにクソ暑いから、息苦しい日もある」

　ボルトが僕の腕に触れた。僕は飛び退いた。「ここでも安全性に大きな問題がある。ここでも安全性に大きな問題があるんだ。金型に指を挟んだりとかね。会社は彼らを脅して賠償請求をさせないようにするんだ。俺たちは紙くずカゴのなかだ」

　僕はそれを聞いてうなずいた。ボルトは肩をすくめた。「だから、ジェシーを知る必要があるんだ。お前の立場は？」

　僕はため息をついた。これは僕にとって良い仕事だった。このままでいてほしい。でも、すべては常に変化していた。僕はみんなに言った。「ここに労働組合を持ち込みたいのなら、それはそれで構わない」と。

　ボルトは僕に近づいた。「それではダメだ。組織委員会にお前が必要なんだ」

　僕は波風を立てたくなかった。「関わりたくない」と僕は彼に言った。

「聞いてくれ」と彼は僕のほうに身を乗り出した。僕は少し後ずさりした。「労働委員会が私をギャングのボスだとみなすかもしれない」

「選挙では僕を頼りにしてほしい」と僕は彼に言ったが「でも僕は組織人じゃない」

　ボルトは首を振った。「フランキーから聞いた話とは違う」

「見て、ボルト、僕は巻き込まれたくない。僕はみんなをサポートするし、自分の仕事をする。ひとりにしてくれ」

　ボルトは頭を振った。「俺はお前が異なっていたと思った」

　僕はため息をついた。「人と違うことはしたくない」

　　　　　　　　　　　　　　　　　□□□

　僕らは工場の反対側から叫び声をずっと聞いていた。僕らは工場内を走り回った。そこに着くまでに、コンクリートの床に残っていたのは血だけだった。

「誰が怪我をしたんだ？」僕はボルトにささやいた。

　彼の無愛想な手は堅いこぶしを作っていた。

「ジョージ」

　彼は死んだのか？

　ボルトは肩をすくめた。「俺たちはまだ知らない」彼は隣のフォークリフトを拳で叩いた。「俺は先月、このレッカー車を起こした。ブレーキが壊れていたんだ」

　工場長は腕を振った。「みんな仕事に戻ろう」

　みんなが仕事に戻ったとき、僕は驚いた。暴動が起きるかと思ったからだ。それが2週間後に起こった。

　事故の話題で持ちきりだった。会社では、プラスチックのゴミ箱を打ち抜く大きな金型の実験をしていた。ジョージはフォークリフトで金型を射出成形機まで運ぶことになった。彼がフォークリフトの前に立って金型を取りつけていると、ブレーキが利かなくなった。フォークリフトのアームがジョージの背中の肺の下を貫いた。

　１週間後、怒りはまだ煮えたぎっていた。水曜日の午後、ウォルターが僕らの部署に駆け込んできた。「聞いたか？　経営陣がジョージを事故容疑で書類送検したんだ！　彼らは彼を非難している」

　ボルトは彼のすぐ後ろにいた。「みんな、聞いてくれ。この先のVFW（an organization of United States war veterans：米国の復員軍人の組織）ポストで金曜日にミーティングを開く。繊維労組のオルグが俺たちと会う予定だ。彼らは今回、俺たちをあまりにも遠くに追いやった」

　彼は正しかった。

　僕らは全員、金曜日の午後3時に解散した。フランキーに会いたくなかったからだ。

　3時45分にVFWのポストに行くと、そこには25人の選手がいた。各部門の代表が集まっていた。興奮に包まれ、人々は腕を振り、1分1マイルを話してた。ボルトが部屋の向こうから僕の目をとらえた。僕はうなずき、微笑んだ。フランキーは彼の隣に立ってた。　

　僕は彼女を見るのを避けた。彼女とジョニーが恋人同士だったことを知ったとき、僕はまだ狼狽していた。

　フランキーが誰かの耳元でささやくのに気づいた。彼が振り向くと、ダフィだとわかった。僕を見たときのダフィの笑顔に、僕は心が温かくなった。フランキーは彼の腕をつかみ、何か別のことをささやいた。僕の状況を説明してくれているのだろうか。

　ダフィは僕に近づいた。「ジェス」彼は僕の手を握った。「きみのことを何度も考えたよ。ここでどれくらい働いていた？」

「1年以上」

　彼は微笑んだ。「きみの助けが必要だ」

　僕は抗議しようとしたが、ダフィはアーニーとスコッティがバーから会議室に飲み物を運んでくるのに気づいた。彼は彼らに手を振った。「ここから酒を運び出せ。ここは真剣なんだ」

　僕は彼の袖を引っ張った。「年上には手加減してやれよ」

「酒は彼のアキレス腱だが、彼はいいやつだ。彼は古いUAWの男だ。ボルトもそうだ」

　ダフィはうなずいた。「ボルトのことを教えてくれ」

　見覚えのない2人の黒人女性がダフィをたたいた。「すみません」と女性の一人が言った。「私はドッティです。組み立て部門で働いています。こちらは友人のグラディス。彼女は私より長くここで働いています」

　ダフィは彼女たちと握手をした。「あなたの部署からは何人来ていますか？」

　彼はビールを2本注文し、代金を支払った。彼はボトルを持ち上げた。「組合に乾杯」と彼は言った。

　僕はうなずいた。

「聞いてくれ、ジェシー。ダフィのことは？」

　僕は肩をすくめた。「僕のなかでは大丈夫だ。彼は信頼できる」

「何人かが彼について何か聞いていた。誰かが彼は共産主義者だと言っていた」

　僕は笑った。「彼は共産主義者じゃない。彼はいいやつだ」

　ボルトは微笑んでうなずいた。「大丈夫。限り、誰かが男を知っている」

「ねえ、ボルト。きみが組合に参加する資格があるかどうかについては、ダフィに尋ねた？」

　ボルトは首を振った。「後で聞いてみるよ。会議の後で」

　他の部屋から歓声が聞こえた。「さあ、戻ろう 」と僕は言った。僕は少し興奮し始めていた。

「今すぐカードにサインしよう！」アーニーが叫んだ。ダフィは両手を挙げた。「きみの店には120人いる。選挙に立候補するには、最低でも30％プラス1人は必要だ。これは素晴らしい動員数だが、もっと必要だ」

「みんなどこにいるんだ？」

　ダフィは首を振った。「初会合にしてはすごい人出だ。しかし、各部署からもっと労働者を集めなければならない」

　ボルトが叫んだ。

「組み立てはどうなんだ？」アーニーが叫んだ。「彼女たちには夫がいる。彼女たちのうち2人は、まだ両親と暮らしているらしいよ」

　ドッティは立ち上がった。「私もその一人よ。ええ、両親と暮らしている。夫なしで2人の子供を育てようとしているの。グラディスも両親と一緒に住んでいる」

　「おい、ダフィ」ボルトは彼を呼んだ。「組合に入れるかな？　俺はセットアップの男をリードしているんだ」

　僕はボルトの価値をダフィに密告できればと思ったが、ダフィはすでにそれを認識していた。「経営陣はきみがリーダーであることを知っている」と彼はボルトに言った。

　ボルトが少し背筋を伸ばすのが見えた。「でも、雇用して解雇するんですか？」

「ぼんやりしているんだ。 俺は本当にちょうどセットアップでもっとも経験豊富な男だが、彼らは一種のギャングのボスのように私を扱う、あまりにも」

　ダフィもうなずいた。

「会社は選挙を遅らせ、人々を威嚇するために時間を使うために、あなたがどちらに味方するかについて議論するだろう。 どっちの味方かはもうわかっていると思うが、はっきりさせなければならない。組合を参加させるために努力すれば、参加させるべきだという我々の主張が通りやすくなる」

　ボルトはダフィの手を握った。「勝てると思うか？」

　ダフィは微笑んでうなずいた。

「そうだ。しかし、時間がかかるだろう。戦いを取るだろう」僕は気が強くなって、うなずいた。「そうだね。でも、戦いが必要だ。各部署に強い人間がいる。ジェスのような人がもっといれば、圧倒的に勝てるだろうね。俺はジェスを信頼している。彼女は100％組合に賛成だと証明している」

　すべてがスローモーションのように起こった。ダフィが「彼女」と言ったのを聞いて、僕は恐ろしくなって振り返り、顎を落とした。フランキーは手のひらで額を叩き、首を横に振った。

　そして頭を振った。男たちはダフィから僕を見て、また戻った。僕はVFWポストを出てバイクに向かった。

「ジェス、待って！」ダフィが叫ぶのが聞こえた。

　僕はそれを引き離した。

　フランキーは唖然とした表情を浮かべた。「俺に何の文句があるんだ？　俺を興奮させる奴とつき合えないからって、他のブッチを切り捨てるつもりか？」

　僕は誰かに口止めされたかった。僕はとても興奮していて、自分の口をコントロールすることができなかった。「どうしてきみはまだブッチだと思うんだ？」と僕は皮肉たっぷりに彼女に尋ねた。

　彼女の笑顔は残酷で、防御的だった。「どうしてまだブッチだと思うんだ？」と彼女は反論した。

　僕はくるりと振り返り、その場を立ち去った。フランキーかダフィが僕を逃がさないことを望んでいた部分もあった。でも、彼らはそうした。