ep6 怒ると神器を取り出すギルドリーダー

「お前、俺たちのギルドに入らない?」


 試合後、俺はボコボコにやられて心身ともに消耗しベンチでぐったりとしているサズにそう話しかけた。

 

「は? なんだよいきなり? 俺はソーラープラネットに入ったばっか……。だいたいアマノサカホコはお前さえいれば俺なんか勧誘しなくてもこのゲームの最強になれるだろ」

「意外とそうでもないぞ? アマノサカホコは最上位9人中6人がラスボス戦で死んだから大きく戦力が落ちてる。ボス戦生き残りのお前は喉から手が出るほど欲しい人材だ」


 実際のところ、序列二位ギルドといえどもボス戦で大きく戦力が削れている。三貴神は全滅、十神の上位3名が死亡したうえ、死亡した十神のアメフキはこれを機にゲームをやめるとのことでアマノサカホコを脱退した。他にもちらほらと脱退するメンバーがおり、今アマノサカホコは戦力を少しずつ落としている。

 そこで空いた十神のアメフキの枠にサズを入れたらどうだというのが俺の試合中に考えたシナリオだ。


「俺が入るメリットは? ソーラープラネットはフランス北部の支配権をやる代わりに入るっていう条件だった。お前たちはこの最強ソロプレイヤーに何を差し出す?」

「まず一つ目。いきなりアマノサカホコの幹部・十神に入れる。こんな待遇は前例がないぜ?」

「俺の実力を考えれば当然だな。次」

「チュニジア東部の支配権」

「ほう、悪くない。だがそこはフランスよりいい場所なのか?」

「ああ、広大なアフリカ大陸を侵略するる重要な拠点だ。窮屈なフランスなんかより可能性が無限大に広がっている」

「……なるほどな。俺が侵略した土地は俺の支配地なのか?」

「ああ。そこにいるプレイヤーも資源もお前の独り占めだ。もちろんそれらを使ってアマノサカホコに逆らったらどうなるかはわかるよな?」


 俺の圧をかけた言葉にブルっと身震いするサズ。ボコボコにした甲斐があったってもんだ。


「……少し考えさせてくれ」

「ああ。わかった。でも1つ言っておくとソーラープラネットはさっきの試合で俺たちに負けて2エリアから始めることになる。それに対し俺たちは3エリアからスタートだ。序列の順位も考慮に入れたうえで、どっちにつくかじっくり考えると良い。俺たちに付くなら明日サン・ピエトロ大聖堂に来い」


 そう言うと俺はサズに背を向け、この場を後にする。賢いあいつならどっちにつくのが賢いかすぐに結論付けるだろう。もしこれでダメだったら仕方ない。縁がなかったということだ。



「ちょっとどういう事!? サズを勧誘したって!! 私聞いてないんだけど!!」

「言ってないからね」

「ナギさん。ちゃんと説明してください。さすがにこれは勝手すぎます」


 サズを勧誘したことを事後報告したら二人に詰められてる。別にいいじゃん。あいつかなりすごい戦力になるだろうし。


「いや~、試合中にこいつ良いな、って思ったもんで。アマノサカホコは最近戦力落ちてるし空いてるアメフキの枠に丁度いいかと」

「私たちに黙って勝手に!? ちょっとくらい相談してくれても良かったんじゃない?」

「ナギさんの言うこともわかります。ですが勝手にチュニジア東部の支配権を渡しちゃうのは違うんじゃないですか?」

「それは、すまん。でもあいつにはそれだけの価値があると思ってる」

「それは、そうですね。でもいきなり十神は危険じゃないですか? 十神は配下も多く持てます。裏切られた時の影響も大きいです。その時はどうするんです?」

「俺が責任もって何とかするよ」

「……わかりました。実際、加入してくれれば戦力は大きく向上しますし、ナギさんはさっきボコボコにサズを倒してますから裏切ったときも何とかできるでしょう。僕はこれで納得しておくことにします」


 とりあえずカグは口説き落とせた。ナミは楽勝で……


「ねえ! 私を無視して納得しないでよ!」

「ごめんごめん。でもサズはきっとナミの役に立つよ」

「そういう話をしてるんじゃないの!! 私は相談しないで勝手にしたことに怒ってるの!!」

「ご、ごめん。でも……」

「でもでもでもでもうるさい!! ”神物創造”!!」

「あ! おいちょっと待て!!それは!?」


 ナミが怒ってスキルを発動させる。物質生成の最上位スキル”神物創造”。ありとあらゆるものを作り出せる最強技。


「国産みの鉾”天逆鉾”」

「おいおいおいおい!?!?!?」


 やっばいやっばい!! ナミが生成したのは神器”天逆鉾”。この世界の最上位の武器でありアマノサカホコのギルドネームもここから取った。


「ごめんごめんマジごめん!! 許して!! 俺、マジで死んじゃう!!」

「神の怒りを知りなさい!! ”天の魔返し”!!」

 

 神器から放たれる最強技に俺に対抗する術はない。俺にできたのはナミに謝罪と殺さないで欲しいという懇願を涙目になりながら叫ぶことだけ。それが通じたのか、技は俺に当たる直前に消滅した。


「うふふ、これに懲りたらもう勝手なことはしないでよね!!」

「は、はい。すみませんでした……」


 ナミが自慢気な顔でそう言い、俺はおとなしくそれに頷くことしかできなかった。


 わからされた。力の差を。っていうか脅しに神器使うなよ!!



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