ep5 寸止めは格好いいけど……

「それでは試合ゲームスターァァトッッ!!!!」

 解説のストラス・カスタの号令で試合が開始される。

「アキヒコ!! 防御展開しろ!!」

「了解です!! ”激流結界”!!」

「アキヒメ!! デバフかけろ!!」

「はい!! ”絶対鈍化”!!」

 ハヤアキ兄の水魔法の高位防御魔法”激流結界”、ハヤアキ妹の鈍化魔法の最高奥義のひとつ、”絶対鈍化”が発動される。こっちの3人が水の防御結界に守られ、敵の3人の動きが極端に悪くなる。

 それに対し敵はジュピターが”神化の光”をかけて”絶対鈍化”を相殺する。

「”魔剣創造”!!」

 サズの周囲に魔剣が大量に発生する。

「アキヒコ!! 防御強化しろ!!」

「了解っす!!」

「”魔剣射出”!!」

 アキヒコが防御を強化したのと同時に魔剣が飛んでくる。当然、魔剣は激流に巻き込まれ、俺たちに届くことはない。

「”防壁破壊”!!」

「なっ!?」

 ランドグリーズの魔法が水魔法の防御を消し去った。

「避けろっ!! 2人とも!!」

 俺は絶対融解で飛んでくるすべての剣を溶かして自分を守る。だが他の二人を守る余裕はない。

 まさか”防壁破壊”なんてマニアックなスキルを持ってるやつが出てくるとは。”防壁破壊”はその名の通り防御系の盾や、防御魔法などを突破する、ただそれだけのスキルだ。あの”絶対防御”でさえレベルMAXじゃなくても突破される。主に他のアタッカーが防御スキルを貫通できないスキルだった場合にパーティーに入れる場合が多い。それ単体では全く戦えないため取っている人がメッチャ少ない。

「あっ!?」

「やべっ!!」

 防壁破壊と魔剣射出のコンボによってアキヒコは右足が斬り飛ばされ、アキヒメは左手と右の脇腹に剣が刺さった。

「大丈夫か? 妹よ!!」

「お兄ちゃんこそ!! 大丈夫?」

「そもそもゲームなんだから痛いわけないだろ」

「あ、ちょ!! ナギさん!! 雰囲気、雰囲気!!」

「そうですよ!!」

「お前らちょけすぎ。ハヤアキ兄は妹を守れ。ハヤアキ妹は相手にデバフを絶やすな。残りは俺がやる」

「了解っす」

「デバフは誰に向けるんですか?」

「サズだけでいい」

「はーい」

 ふざけた二人に指示を出し、俺は3人と向かい合う。

「さすがにナギさんでも俺たち3人を相手するのは厳しいんじゃない?」

「どうかな? そっちのランドグリーズは俺との戦闘には役に立たないだろ。ジュピターさんもバフ魔法使いだから俺との戦闘は実質お前ひとりだろ?」

「俺は最強ソロプレイヤーだぞ? いつも群れてるお前らとは格が違うんだよ」

「ほう。じゃあその実力見せてもらおうか」

「いいぜ。”魔剣創造”」

 サズの周囲を埋め尽くす数の魔剣。

「”神化の光”!!」

「”絶対鈍化”!!」

 俺の指示通り、ハヤアキ妹がデバフをかける。ほぼ”神化の光”を相殺した形だ。

「”魔剣射出”!!」

 サズが魔剣を射出、それと同時に自身も魔剣を一本持って突っ込んでくる。俺は飛んでくる魔剣を刀で弾き落とし、突っ込んでくるサズを警戒する。

「”魔剣射出”!!」

 わお、時間差か。器用だな。仕方ない。スキル使うか。

「”炎剣熱波”!!」

 刀を振るうと空中の魔剣がすべて燃え、消滅する。だがサズの足は止まらない。

「ハァァ!!」

 ”連続刺突”のモーション。剣や刀のスキル共通の基本スキル。基本スキルがゆえに威力も速度も大したことはないが、発動に技名を言わなくてもいいのは大きなメリットだ。そのメリットも超ベテランプレイヤーの俺には意味をなさないが。

 問題なく弾く。

「”魔剣創造”、”魔剣射出”」

「は?」

 ”連続刺突”の途中に魔剣創造からの射出。さすが魔王戦に出るだけのことはある。戦い慣れしてるな。

「”神化の光”!!」

 俺に攻撃が当たる直前、ジュピターの超バフがサズとその攻撃に付与される。

「ハヤアキいもッ」

 デバフは間に合わない。やっべえ。

 受けた刀が超バフのかけられた魔剣にへし折られ、両腕が消し飛ぶ。

「ナギさん!! ”水流のベール”!!」

 即座にハヤアキ兄が水魔法で俺を治癒する。だが明らかにそれはミスだった。

「おい!! 馬鹿ッ!!」

 ハヤアキ兄の意識が防壁から治癒にそれた瞬間を見逃さず、ランドグリーズとサズのコンボがハヤアキ兄妹を襲う。

「”防壁破壊”!!」

「”魔剣射出”!!」

「”炎剣熱波”!!」

 2人の方に飛ぶ魔剣を消滅させようと試みるが、すべてを消滅させるには至らない。結果2人は立ち上がれないほどのダメージを負った。

「降参しろ!! 早く!! 殺されるぞ!!」

「「リザイン!!」」

 俺の言葉に二人がとっさに叫び、会場から姿を消す。試合ならではの特殊ルールだ。これで本当に3VS1 。バフも相殺できなくなった。

「これ相当厳しいぞ」

 まずはバフ使いを潰す。

「”炎閃”!!」

「あっ?」

 サズの驚いた声。そんなのは無視してジュピターに急接近する。

「リザイン!!」

「”絶対融解”!!」

 ジュピターが消えた場所に俺の折れた刀の”絶対融解”が走る。殺されそうになったら降参するって決めていたんだろう。

「”魔剣乱舞”!!」

「”絶対融解”!!」

 ”分身魔剣”スキルの上位技を”絶対融解”で相殺する。

「”炎閃”!!」

「あ、また!!」

「まずはお前からだ」

「お、俺!?」

 ランドグリーズに急接近する。

「り、リザっ」

「”炎熱閃舞”!!」

 リザインが言い終わる前に叩き切ってやった。敵ギルドの戦力を落しておきたかったんだ。

「さっ、あとお前1人だ」

「アマノサカホコのナンバー2。今の剣速、魔剣をスキルなしで軽々弾くその実力。さすがの一言に尽きる。だが!! ソロ最強の名にかけてお前を倒す!! 行くぞ! イザナギ!!」

「来いよ。本当の最強を見せてやる」

 ナンバー2なんだけどね。

「”魔剣創造”」

 俺は折れた刀を放り捨て、ストレージから予備の刀を取り出し、構える。

「”魔剣創造”」

「”魔剣創造”」

「”魔剣創造”」

 ……どんだけ増やすねん。会場を埋め尽くす魔剣。

 スキル”分身魔剣”の真価はこういうところ。圧倒的な物量。これが同時に飛んでくるんだから笑えない。レベルMAXだったら上限もないし。やばすぎ。

「”魔剣射出”」

 射出の号令。これを避けるのはさすがに無理。しゃーない受けるか……。

「”炎剣熱波”」

 スキルを使って弾き落とし続ける。……攻撃が終わらん。

「”魔剣乱舞”」

 軌道が変わる。いろんな方向から魔剣が飛んでくる。

「おいおいおいおい」

「いくらお前でもこれは防げないだろ」

「そうだな」

 攻めるしかない。

「”炎熱瞬閃”!!」

 炎刀スキル最速前進技で迫りくる魔剣を溶かしながら一気に距離を詰める。

「おいマジかよ!! ずる過ぎんだろ!! 防げ!! ”魔剣防刃”!!」

「甘いッ!! ”絶対融解”!!」

 サズの周りを回転してサズを守る魔剣が溶けて落ちる。

「イカサマだろ!! そんなの!!」

 慌てた顔で叫ぶサズ。

 でも寸止めにしといてあげよう。こいつは使えそうだし。いや、寸止めだと格好いいけど後ろから魔剣でザクッみたいなことになりそうだし……。

 俺の結論、死なない程度にズタボロにする!!

 数秒後、サズは両手両足が無くなって、喉に短剣が突き付けられていた。

「り、リザイン……」

「決まった~~!!!! 激戦を制したのはアマノサカホコ!! 1VS3の窮地に追い詰められながらも必殺の”絶対融解”がすべてを溶かしつくした~~!!!! 相変わらずイカサマみたいな力だ~~~アマノサカホコのサブリーダーイザナギ!!」

 無事、勝利。

 





 

 

 

 


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