018


「えーっと、ここにお父さんって書いてあるじゃん。滝本先生はお父さんじゃないでしょ」


「えー、あげたいあげたい。かいと、がんばってかいたもん。あげるもん。こんどのプールきょうしつにもってくの」


「いやいやいや、濡れちゃうし」


「わーたーすー」


「ダメだって」


「ヤダヤダ」


言い合いをしていると、だんだん海斗の顔が曇ってくる。

そしてついに不機嫌な顔でその場を動かなくなった。


「ちょっと海斗、帰るよ」


「やだっ」


「置いてくよ」


「やだっ」


「保育園に泊まる?」


「やだっ」


「もうっ、どうしたいのよっ」


「だってたきもとせんせーにわたしてくれないんでしょ」


「だって渡せないじゃない」


「やだっ」


テコでも動かない海斗と譲らない紗良。

だけど先に根負けしたのは紗良だった。


「あーもうっ、じゃあ今度聞いてみるから。それでいいでしょ?」


「……いい」


「……帰ろ?」


「かえる」


ようやく靴を履いてくれた海斗と手を繋ぎ、駐車場へと向かう。


(ああ、変なことを引き受けてしまった。寝たら忘れてくれないかしら)


一気に疲れてしまった紗良は、どんよりとした気分のまま家路についた。

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