019

杏介はいつものラーメン店でいつものように接客してくれた紗良を見て、首を傾げた。

上手く言い表せないのだが、何だか今日は紗良の様子がおかしい気がする。


妙にソワソワしているというか、落ち着かないというか。


そんな彼女は意を決したかのように口を開いた。


「あの、先生にお願いがあって……」


「はい、何でしょう」


「あ……、えっと……」


エプロンの裾をぎゅっと握りしめて、モゴモゴと口ごもる。


言いづらそうな雰囲気にここでは話しづらいことなのかと思い、杏介はひとつ提案した。


「今日は何時までですか? 仕事終わってから話聞きましょうか?」


「いえそんな、遅くなってしまうし」


「僕は構いませんが。……あ、早く帰らないとご家族が心配されますよね。すみません、迂闊なこと言いました」


本当に迂闊だと思った。


(石原さんは既婚者なんだから仕事終わりに個人的な理由で俺と話をするなんて、誤解されかねない状況だよな)


変な提案をしてしまったと焦っていると、紗良は首をふるふると横に振る。

そして小さく息を吐き出した。


「いえ、いいんです。では申し訳ないですが、二十二時に仕事が終わるので……」


チラリと時計を見る。

現在の時刻、二十一時三十分。

杏介にとってはたいしたことない待ち時間だ。

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