017

「えっと……?」


保育園にお迎えに行き、先生から手渡された海斗が制作した『父の日の似顔絵』を見て、紗良は固まった。


「海斗くんには父の日とは言わずに、大好きな人の絵を描こうねって言ったんですけど、皆と同じがいいって言うので……」


「あー、そうなんですね……」


色画用紙で枠組まれた『父の日の似顔絵』には、クレヨンで描かれた顔っぽい何か。男か女かわからないけれど、髪の毛らしきものは短いから男なのか、と思わなくもない。


それはいいとして。


枠には先生の字で『おとうさん、いつもありがとう』と書いてあった。


「誰を描いたのか聞いたら、タキモト先生って言うので、タキモト先生ありがとうって書こうかって提案したんですけど、どうしても皆と同じ、おとうさんいつもありがとうがいいって言うので……すみません」


「いえいえ、こちらこそ、気を遣っていただいて、すみません」


しばらく先生と謝り合戦をしてしまった紗良だったが、何か聞き捨てならない言葉を聞いたような気がする。


「海斗、これ誰を描いたの?」


「たきもとせんせー」


「……プールの?」


「うん、プールのせんせー」


「そう……」


プール教室で滝本先生にやたら懐いているとは思っていた。

けれど、絵に描くほど好きだったとは。


(あの先生、面倒見よさそうだもんなあ)


なんてぼんやり考えていると……。


「かいと、せんせーにプレゼントしたい」


「は?」


「たきもとせんせーに、これ、わたす」


「……いや、それはちょっとどうかと思うよ」


紗良は当たり障りのない言葉でサラっと流そうとするが、海斗は引き下がらない。


(滝本先生が好きなのはわかった。わかったけど、あげられないでしょ。だって、おもいきり『おとうさん、いつもありがとう』って書いてあるし。さすがにもらう方もドン引きでしょ)


心の葛藤が顔に出るほどに紗良の眉間にはシワが寄った。

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