店員と常連客

003

明日への活力など寝て起きればもうリセットされているわけで――。


紗良は五時半の目覚ましでむくりと起き上がった。


身支度を整えながら、夜のうちにタイマーをかけておいた洗濯物をベランダに干す。

それが終われば朝食の準備にとりかかるが、朝からあれこれ作る余裕はないため今日はピザトーストだ。


オーブントースターで焼いていると紗良の母が起きてきて、あとを母に任せて紗良は寝室へ。


「海斗、起きなさーい。朝だよー」


寝相悪く布団から半分飛び出しながらもまだぐーすか寝ている海斗を揺り起こす。


「……うーん」


どこでそんな技を覚えてきたのだろうか、ごろんと寝返りを打ちながら器用に布団に丸まる海斗。


「保育園遅刻するよー」


容赦なくぺりっと布団を剥がし、寝ぼけ眼の海斗を着替えさせる。抱っこでダイニングまで運び、焼き上がったピザトーストを食べさせつつ紗良も急いで胃に流し込んだ。


「今日は午後から雨みたいよ。傘持っていきなさいね」


朝の情報番組のお天気コーナーを見ていた母がのんびりとお茶を飲みながらそんな事を言い、紗良はそれを頭の片隅に置いておきながら海斗の身支度を整える。


「ほら、海斗行くよ」


「おばーちゃん、いってきまーす」


「はいはい、いってらっしゃい。ほら、紗良、傘忘れてる」


「あっごめん、ありがとう」


自分のカバンに傘に、海斗の保育園の着替え一式。軽自動車の助手席に雑に起き、海斗を後部座席へ乗せた。


保育園までは車で五分ほどだ。近いけれど、海斗を車へ乗せたり降ろしたりする動作は意外と時間がかかる。四歳児だがまだまだ一筋縄ではいかないことが多い。


保育園の門が開くと同時に海斗を預け、紗良は急いで職場へ向かう。朝の時間帯は交通量が多く、渋滞になりそうな道を時間と戦いながら安全運転で進み、職場の駐車場から執務ビルまではダッシュだ。


そうして始業時間ギリギリに席に座り、汗だくのまま仕事が始まる。


これが紗良の毎朝の風景だ。

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