第68話 冬休みの過ごし方(ギャルside)

「冬休みは誘惑も多いが、気を抜かず、勉強するように」


 先生が真面目な顔でそう言っても、教室内の浮かれた雰囲気は変わらない。

 

 だって冬休みって、クリスマスも年末年始もあるんだもん。

 浮かれるな、って言う方が無理でしょ。


 それに、去年は高校受験前で勉強ばっかりだったし。

 今年も真面目に勉強しろ、なんて、さすがに無理でしょ。


 まあ、それでも、委員長は真面目に頑張るんだろうけど。


「冬休みの課題、忘れたら新学期に居残りだからな」


 そう言って、今年最後のホームルームが終わった。

 明日からは冬休みだ。


「委員長、冬休みは予定ある?」

「冬期講習と、後は帰省ね」

「空いてる日とかって、あったりしない?」


 委員長は残念そうに首を横に振った。

 薄々予想していたことだけれど、やっぱり寂しい。


「ごめん。年末年始以外は毎日冬期講習で、空いてる日も母方の実家に帰省したり、いろいろ予定が入ってて」

「いやいや、そうだよね。冬休みって忙しいし」


 委員長の家ってしっかりしてそうだから、冬休みが忙しいのは予想通りだ。

 まあ、一日くらい遊びたかったけど。


「天野さんは冬休み、なにして過ごすの?」

「うーん、そうだなぁ……」


 実は、何も予定がないのだ。

 お母さんとおばあちゃんがあんまり仲良くないから、うちは帰省もしないし。


 それに、お母さんは年末年始、ほとんど仕事で家に帰らない。

 クリスマスや年末年始など、みんなが働きたがらない時期は特別手当がつく。

 そのため、いつもより高い給料をもらえるから、お母さんはいつも出勤するのだ。


「……バイト、詰めようかな」

「アルバイト?」

「うん」


 私がアルバイトをしているスーパーも、年末年始やクリスマスはいつもより時給が高くなると言っていた。


 それに私、服飾系の大学に行くって決めたんだもん。

 今のうちからお金を貯めておけば、少しは楽になるはずよね。


 私がいいな、と思った大学はどこも偏差値が高くない。つまり、必死に受験勉強をする必要がない。

 だからその分の時間をバイトにあてれば、進学前にある程度学費を確保できるはずだ。


 今まで以上に忙しくなるし、大変だけど。

 でも、委員長だって頑張ってるんだもん。私も、ちゃんと頑張りたい。


「偉いね、天野さん」

「委員長だって、偉いでしょ」

「うん。私たち、二人とも偉いわ」


 委員長はそう言って、くすっと笑った。


 委員長のこの笑顔、めちゃくちゃいいんだよね……。


 前から綺麗な顔はしてたけど、髪を切ってコンタクトにしたことで、それが前より分かりやすくなった。


 みんなだって、そう言ってたし。


 前は堅物の委員長、とみんなから敬遠されていたけれど、今はそうじゃない。

 私と仲良く話す委員長を見て、親しみやすさを覚えた子が多いみたいだ。


 その上綺麗で、頭もいい。


 絶対、私以外にも委員長のこと好きな人、いそうだよね。

 まあ、私ほど委員長のことを好きな人はいるはずないけど。


「ねえ、委員長」

「なに?」

「冬休み、たまに電話してもいい?」


 会えなくても、せめて声くらい聞きたい。


「ええ。たまには、ビデオ通話にしてもいい?」

「その時は事前に言ってね、すっぴんの時は無理だから」


 私がそう言うと、委員長が笑った。


「どうせ、すっぴんも可愛いのに」


 なにそれ。狡い。

 委員長も、私のこと好きなの?

 それって、どういう種類の好きなの?


「でも、メイクしてた方が可愛いもん」


 委員長には、一番可愛い私を見てほしい。

 だって、委員長が大好きだから。


「スクショ、いっぱいしちゃうかも」


 委員長の呟きが冗談なのか本気なのかは、ちょっと分からなかった。

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