第67話 クラス希望調査(ギャルside)
「冬休みに入る前に、提出するように」
ホームルーム中にそう言って配布されたのは、クラス希望調査、と書かれた紙だ。
記入事項は、名前と来年次の希望クラス。
選択肢は2つである。
・理系クラス
・文系クラス
だ。
この希望調査、及び今年一年間の成績によって来年のクラスが決まる。
委員長は確実に、理系で一番成績のいいクラスに入るよね。
だからもう、私が委員長と同じクラスになることはないし、こうして授業中に隣に座ることもなくなる。
冬休み明けには、きっと席替えだってあるし。
こうして隣に座っていられる時間も残りわずかだと思うと、寂しくなる。
冬休みがくるのが嫌だなんて思ったのは、生まれて初めてだ。
隣を見ると、委員長は既に記入を始めていた。もしかしたら、今日中に出して帰るのかもしれない。
なんとなく気が重くなって、心の中で溜息を吐く。
これからは今まで以上に、進路のこととか、未来のこととか考えなきゃいけないんだよね。
♡
「ただいま」
家に誰もいないけれど、いつものように挨拶はする。
居間のテーブルの上に、クラス希望調査のプリントをおいた。
「まあ、文系か理系かで言えば、文系だよね?」
こういうのは得意科目ではなく、行きたい学部や学科で選ぶべきだとは分かっている。
分かってはいるけれど、私の得意科目を考えた時に、理系を選ぶのは厳しいのも事実だ。
「だからまあ、これに関してはそんなに悩むことはないんだけど」
呟きながら、文系クラス、と記入する。
このプリントに関してだけ言えば、考えることはもうない。
「進路、どうしよっかなぁ」
立ち上がり、自分の部屋へ向かう。
部屋の中央にあるテーブルの上に、作りかけのワンピースがのっている。
激安通販サイトで買った白いワンピースはやはり生地がペラペラだった。
でも見た目は悪くなかったし、リボンやレースを縫い付けたことで、かなり可愛くなった気がする。
「もうちょっとレースを付け足して、華やかな印象にしたいんだよね」
ヘッドドレスを作るのは楽しかったし、こうして服にアレンジを加えるのも楽しい。
ゼロから服を作ってみたい、とも思う。
「でも、服飾系に進むのって勇気いるよね」
ベッドに寝転がり、天井を見上げる。
きちんと掃除をしているとはいえ、天井にまでは手が回っていない。
「……どうしよう」
そこそこいい大学の経済学部にでも行って、そこそこの企業に就職する。
きっとそれが、一番安全だ。
「でも私、経済とか興味ないし。ってか、大体の勉強に興味ないし……」
分かっている。みんながみんな、興味があることをして生きているわけじゃないってことくらい。
「うーん……」
以前、ネットで服飾系の大学について調べた。
私が行きたいと思うような学校はほとんど私立の大学で、しかも学費は高め。
「お母さんは、好きなようにしろって言うけど……」
どうしようかな。
挑戦してみて、いいのかな。
上手くいかなかった時のことを考えると怖い。
でも今は、やってみたいという気持ちも大きい。
「……まあ、どうせ、貧乏には慣れてるし」
たぶん、普通の大学へ進学することを決めたら、私は後悔する。
だけど、服飾系の大学へ進学して失敗した時に後悔するかどうかは分からない。
「だったら、答えは決まってるじゃん」
頷いてすぐ、私は委員長へLineを送った。
『私、服飾系の大学を目指すことにする!』
言っちゃった。宣言しちゃった。
鼓動が速くなる。どきどきして、私は思わず立ち上がった。
「私もう、頑張るしかないんだ……!」
不安はある。でもそれより、わくわくが大きくて、自然と笑顔になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます