第63話 バレちゃった秘密(ギャルside)

「え……?」


 嘘。今、委員長、なんて言った?

 私がいちごなんじゃないかって、そう、言ったよね……?


「な、なんで?」


 思わず声が震えた。これじゃあ、動揺しているのがバレバレだ。

 でも、なんでバレちゃったの?


 どうしよう、どうしよう。


 委員長には、いつかちゃんと自分から話そうと思っていた。なのに、自分で伝える前に、委員長にバレちゃうなんて。


「この前、手芸屋さんで天野さんを見たの。

 生地やレース、リボンを買ってた。……それが、いちごちゃんの作ったヘッドドレスの材料と同じに見えたの」


 ……どうしよう。

 気のせいだって言ったらごまかせる?


 でもそんなことしたら、結局困るよね。どうせ、いつかはちゃんと伝えるわけだし。


 まさか、こんな形で委員長にバレるとは思わなかった。


「委員長の言う通りだよ。私がいちごなの」


 スマホを取り出して、いちごのSNSの画面を見せる。

 アカウント所有者しか表示することのできない画面だ。


 委員長が息を呑んだ。

 そして、何度かまばたきを繰り返す。


 ぎゅ、と私は両手の拳を握り締めた。

 委員長になにを言われるかが、怖い。


 こんなことなら、もっと早い段階で、ちゃんと自分から伝えておけばよかった。


「……天野さんが、いちごちゃん……」

「うん、そうなの。内緒にしてて、ごめん。いつかは言おうとしてたんだけど」


 ごめん、ともう一度謝って頭を下げる。

 委員長の顔を見るのが怖くて、なかなか顔をあげられない。


「……天野さん」

「……うん」

「だったら、私も天野さんに言わなきゃいけないことがあるわ」

「なに?」


 ゆっくりと顔を上げると、委員長は緊張した顔で私を見つめた。


「私が、ストロベリーナイトなの」


 うん、知ってる。

 だいぶ前に特定してるから。


 でも、委員長は私が気づいていたことなんて知らない。

 なのに、勇気を出して教えてくれた。


 だからもう私も、なにもごまかさない。


「それには、前から気づいてたの」

「えっ!?」


 委員長の顔が、ゆでだこみたいに真っ赤になっていく。

 そして手元のおしぼりを何度も握りながら、そうなんだ……と小さい声で呟いた。


 気まずい。


「あ、あの、委員長!」

「な、なにかしら……?」

「ずっと内緒にしてて、本当にごめん……っ!

 でも、言おうと思ってたのは本当なの。ごめん、だから……っ!」


 だから、私を嫌いにならないで。


 そう口にするより先に、私の瞳から涙が流れ落ちた。

 感情が溢れて、言葉より先に涙になってしまう。


「待って、天野さん。どうして謝るの?」

「……え?」

「さっきも謝ってたでしょ。私がストロベリーナイトだって言わなきゃと思って、流しちゃったけど」


 なんで、私のこと責めないの?

 ずっと内緒にしてたのに。


「だ、だって、私、ずっと言えなくて……」

「だってそれは、なにか理由があったからでしょ?」


 きょとんとした顔で私を見つめ、委員長は私の涙を手で拭った。


 狡い。

 ……でも私、きっと、委員長のこういうところを好きになったんだ。


 委員長はいつだって、なにかを決めつけたりしない。

 ちゃんと、私の話を聞いてから考えようとしてくれる。


 先程よりも勢いよく、瞳から涙があふれ出る。自分では、もうコントロールできない。


「天野さん? どうしたの?」

「だって、だって、委員長が優しすぎるんだもん……!」

「えっ? なにが? 私、当たり前のことしか言ってないけど……」

「そういうとこじゃん!」


 涙がとまらない。開きっぱなしの水道みたいに、涙が次から次へとあふれてくる。


「え、ちょっと、天野さん……」


 委員長、私が泣いたから慌ててる。

 私がいちごだって確定して、委員長がストロベリーナイトだと知られていたことが判明して、戸惑ってるはずなのに。


 なのに、私のことを一番に考えてくれてるんだ。


 好き。

 私、本当に委員長のことが好き。


 今、口を開けばそれしか言えなくなってしまいそうで、私はひたすら泣き続けた。

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