第61話 もしかして……(委員長side)

 電話を切って、スマホをベッドに投げ出す。

 そして、そのまま私もベッドに飛び込んだ。


「どうしよう、まだ頭が整理できないんだけど……」


 一番に天野さんの誕生日を祝いたい、とはずっと思っていた。

 だから日付が変わる寸前にアラームをかけていたし、なんとか電話をかけることができた。


 けれどまだ、私の頭は混乱したまま。


「だって……」


 今日、いちごちゃんは配信で自分で作ったというヘッドドレスを見せてくれた。

 そしてそのヘッドドレスに使われていた材料が、どう見ても先日天野さんが買っていたものと同じに見えたのだ。


 ただの偶然? たまたま似ていただけ?


 私は手芸の材料に詳しいわけじゃない。

 だから、いちごちゃんのヘッドドレスの材料と天野さんが買っていた物が、絶対に同じだと断言することはできない。


 でも……。


 ゆっくりと溜息を吐く。

 頭の中に考えていることを口にするだけで、なにかが変わってしまいそうな気がする。


 けれど、頭の中に浮かんだ可能性を否定することはできない。


「もしかして、天野さんがいちごちゃんなの……?」


 顔がちょっと似ているかも、とは思っていた。

 でも、天野さんがいちごちゃんかも、なんて、想像したことすらない。


「だとしたら、なんで言ってくれなかったの?

 ……いや、それより……」


 天野さんに私、いちごちゃんについて結構熱く語っちゃってるよね?

 私、本人相手に推し語りしてたってこと……!?


 顔が急激に熱くなった。どくん、どくんと心臓もうるさい。


「わ、私がストロベリーナイトだってことは、バレてないよね?」


 私は、天野さんにストロベリーナイトという名前でいちごちゃんを応援していることは話していない。


「年齢とか、身バレしそうなことは投稿してないはずだし……!」


 すう、はあ、と深呼吸を繰り返す。


 冷静になって、私。


 頭の中で何度も呟く。


 今日の配信は動揺しすぎて、ろくにコメントできなかった。

 もちろん、いちごちゃんは今日も最高に可愛かったんだけど。


「……ちょっと落ち着いてきた、かも」


 結局、天野さんがいちごちゃんなのかどうかは、本人に確認してみなければ分からない。

 今あれこれ考えたって、どうせ結論は出ないのだ。


「とりあえず、寝よ」


 寝れば天野さんに会える。今日はもう、さっさと眠ってしまおう。





 目覚まし時計が鳴る二時間前に目を覚ました。

 しかし、二度寝する気にはなれない。


「……時間まで、勉強しなきゃ」


 椅子に座り、机の上で問題集とノートを広げる。

 シャーペンを握っても、なかなか集中できない。


 部屋の隅には、天野さんに買った誕生日プレゼントがある。

 いろいろ考えた結果、天野さんにはマフラーをあげることにした。


 天野さんは日頃マフラーを使っていないし、マフラーを持っていたとしても、色やデザインが全く一緒でなければ困らないだろう。


 マフラーなら、毎日つけてくれるかもしれないし。


「天野さん、喜んでくれるといいな」


 今日は天野さんの誕生日だ。

 天野さんがいちごちゃんなのかどうかも確認しなきゃいけないけど、一番大切なのは誕生日を祝うこと。


「誕生日を祝って、いちごちゃんかどうかを聞く。

 やることはもう決まってるんだから」


 立ち上がって、クローゼットを開く。


 天野さんの誕生日なんだから、今日はちゃんとお洒落していかなきゃ。

 短くなった髪の毛も、天野さんには今日初めて見せるのだから。

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