第60話 ちょっとした違和感(ギャルside)

「みんな、今日は急に告知したのに、集まってくれてありがとう!」


 笑顔で手を振ると、今日も可愛いよ! なんてコメントがたくさん流れてくる。

 いつも通り、そこにはストロベリーナイトさんもいた。


「苺の国のお姫様、みんなに癒しを届けるいちごちゃんだよ!」


 全力の笑顔でいつもの挨拶をする。


「今日はね、みんなに見せたいものがあるの!」


 なになに? とコメント欄がざわつく。

 私はドヤ顔で、自作のヘッドドレスをカメラに近づけた。


「見て! これ、いちごが作ったんだよ!」


 すごい、天才! なんて褒められると嬉しい。

 だって、一生懸命作ったんだもん。


 ストロベリーナイトさんは、なんて言ってくれるかな?

 白い生地を選んだんだから、喜んでくれるよね?


 そう思ってコメント欄を眺めても、いっこうにストロベリーナイトさんのコメントは流れてこない。

 私が見逃しただけ? でも、こんなにコメント欄を見てるのに?


「今からつけてみるね!」


 ヘッドドレスを頭につけ、似合う? と可愛いポーズをとる。

 

 また、ストロベリーナイトさんのコメントがない……。


 大量の可愛い! というコメントの中に、ストロベリーナイトさんのものはない。

 いつもなら、スパチャ付きで可愛い! って言ってくれるはずなのに。


 いや、スパチャはなくていいんだけど……。


 もしかして、配信を見ていないのだろうか?

 トイレに行っているとか?


 もやもやする。

 でも配信が続いている以上、それを顔に出すわけにはいかない。


「また作ってみようと思ってるから、どんなのがいいかコメントで教えてほしいな!」


 コメントを誘うようなことを言ってみる。

 でもやっぱり、ストロベリーナイトさんはコメントを送ってくれなかった。





「……なんでなんだろ」


 配信を終えて改めてコメント欄を見てみても、やはりストロベリーナイトさんは最初以外コメントをしていなかった。


 しかも、配信が終わってもSNSで感想を投稿していないし、私にリプもくれない。

 こんなこと、今まで一度もなかった。


「なんでなんだろ、気になる……」


 単純に、途中でなにかあって配信を見るのをやめただけかもしれない。

 けれど、妙にそわそわする。


 いっそ直接、委員長にLineでもしてみようかな?


「今なにしてる? とか」


 なんかそれ、カップルっぽくない?

 そんなメッセージ、今まで送ったことないし。


 ……でも、いいよね?


 うん、いいはず。

 頷いて、私は委員長へメッセージを送ってみた。





「返事、こない……!」


 委員長へLineを送ってから、もう1時間くらい経つ。


 いや、1時間って、まだ全然?

 この時間だと、もう明日まで見ないのかな。


 あと少しで日付が変わる。眠っていてもおかしくない。


「もしかして配信も、途中で寝落ちしちゃったとか?」


 委員長はいつも勉強頑張ってるし、それもあり得るよね。

 途中で寝ちゃったのなら、コメントだってできないし、終わった後に感想も呟けないし。


 うん、きっとそうだ。そうに違いない。


 一度そう考えると、少し心がすっきりした。


「喉渇いたし、お茶でも飲もうかな」


 冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出し、コップに注ぐ。

 配信中は一人で喋り続けることになるから、結構喉が渇くのだ。


 お風呂入ろうかな。


 コップを流し台において、着替えを用意するために部屋へ戻る。

 すると、スマホが音を立てて鳴り出した。


「えっ」


 委員長からの電話だ。


 Lineじゃなくて電話?

 しかも、こんな時間に?


 何事だろうかと思いながら、慌てて電話に出る。


「委員長? どうしたの?」


 もしかして、また母親となにかあったのだろうか。


『天野さん、お誕生日おめでとう』

「えっ?」

『日付変わったでしょ。一番に言いたかったの』


 なにそれ、嬉しすぎるんだけど……!


『遅い時間にごめんね。おめでとう、って言いたかっただけだから』

「ううん……!」

『おやすみ、天野さん』


 もう少し話していたかったけれど、委員長はすぐに電話を切ってしまった。

 残念だけれど、それ以上に嬉しい。


「私のこと、最初に祝いたいって思ってくれたんだ……」


 嬉しくて、自然と頬が緩む。

 鏡に映った私は、みっともないくらいにやけていた。

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