第59話 初めてのときめき(ギャルside)

「よし、いいの買えた……!」


 今日は原宿に行って、ヘッドドレスの材料を買ってきた。

 事前にお気に入りのお店で見本を観察したから、不足している物はないと思う。


 今日買った物の他に必要な布用ボンドは事前に100均で購入してある。

 手芸屋で買うとどうしても高くなるから、節約できるところは節約したかったのだ。

 糸や針、ハサミに関しては、小学校の時の裁縫セットがあった。


「えーっと、まずは布を二枚に切るんだよね。店員さんに言って必要な分だけ買ったんだし、半分にすればいっか」


 ヘッドドレスを作る場合、同じサイズの布を二枚用意する必要がある。

 一枚の布でいいのかと思っていたけれど、布を二枚重ねて縫わなければいけないらしい。


 大きめのヘッドドレスが欲しいから、縦の長さは8㎝にしてみた。横は28㎝である。


「で、布を切った後は、片方の布にレースを縫い付ける、っと」


 本にも簡単だと書いていた通り、それほど複雑な作業はない。

 まあ、裁縫に慣れていない私は、それでも時間がかかってしまうんだけど。


「ストロベリーナイトさんも、気に入ってくれるよね」


 ちょっとだけ悩んだけれど、やっぱりヘッドドレスは白を基調に作ることにした。

 そして、レースやリボンを赤にしてアクセントを加える。

 いちごらしく、苺色だ。


「なんか、やってみると楽しいかも!」


 ちまちまとした作業だけれど、集中してやると結構楽しい。


 小学校の時は家庭科なんて別に好きじゃなかったけど、やっぱり人って変わるみたい。

 それに、私だけの可愛いヘッドドレスができると思うと、どんどんやる気が湧いてくるんだもん。





「できた……!」


 できたばかりのヘッドドレスを見て、思わずにやにやしてしまう。

 近くで見ると縫い目が少し汚いところもあるけれど、遠目で見る分には十分過ぎるほど可愛い。


 実際に着けてみると、顎ヒモの長さもぴったりだった。


「超可愛いじゃん!」


 鏡に映った自分を見て、思わずそう叫んでしまう。


 もちろんロリータブランドで買う物に比べるとやや地味だが、それでも十分可愛い。

 それに、飾りをつけたり、レースやフリルをもっとつければ、いろんな種類の物が作れそうだ。


「これ、ちょっと節約にもなるかも」


 ヘッドドレスは、店で買うと1万5000円くらいする物も多い。

 もちろん安価な物もあるけれど、サイズが小さめだったり、シンプルなデザインの物だ。


「次はどんなの作ってみようかな……!」


 作り終えたばかりなのに、そんなことを考えてしまう。

 今度は違う色を作ってみたいし、いろんな飾りをつけてみたい。


「ラインストーンとかのせたら、キラキラして可愛いかも!」


 ヘッドドレス完成したよ! ってSNSにのせちゃおうかな。

 でもでも、配信で初披露した方がいいよね? みんな、褒めてくれるだろうし。


「今日の夜、いきなりだけど、配信しちゃおうかな」


 委員長は夕方から塾だ。でも、22時くらいから配信を始めればきっと見てくれるはず。

 お母さんは夜勤で帰ってこないし、明日は日曜日だ。寝るのが遅くなっても問題ない。


「うん、決めた! 配信しちゃお!」


 SNSで、急遽配信することになったことを投稿する。


「じゃあ、一回お風呂入って、いちごにならないと!」


 鼻歌を歌いながら、私は浴室へ向かった。

 なんだか、楽しくて仕方ない。


 自分で好きな物を作るって、こんなにときめくことだったんだ。

 もし、今日作ったヘッドドレスとお揃いのワンピースを作れたら、どれくらいときめいちゃうんだろう?


「私、好きなこと、見つけちゃったかも……!」


 今はまだ、確信があるわけじゃない。

 でも今日、私はなにかを掴めた気がする。


 委員長にもいつか、伝えられたらいいな。

 その時は、私がいちごなんだっていうことも、ちゃんと伝える。


 きっとそうすることで、私たちの関係はまた一歩進むはずだ。

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