第58話 追跡(委員長side)

 嘘でしょ!?

 なんで天野さんが、こんなところにいるの!?


 天野さんも、いつの間にかロリータに興味を持つようになっていたのだろうか。

 それとも、たまたまこの店に入ってみただけ?


 声をかけたいけれど、そうするとプレゼントを選んでいる話までしてしまいそうだ。


 天野さんは店内をすいすいと進み、小物コーナーの前で足を止めた。

 複数のヘッドドレスを手にとっては、じろじろと見比べている。

 とても、なんとなく店にきた人のようには見えない。


 天野さん、ヘッドドレスが欲しいのかしら。


 品物を選んでいるふりをしながら、ひたすら天野さんを観察してしまう。


 天野さんは結構な時間ヘッドドレスを見ていたけれど、結局レジへは行かず、そのまま店を出てしまった。


 無意識のうちにスマホで時間を確認する。

 プレゼントを買うことを考慮しても、まだ時間はある。


 ……こんなこと、本当はだめなのかもしれないけど。

 天野さんの後をつけてみたい。


 天野さんがこの店にきたから、というのもある。

 それに加えて、天野さんがもしかしたら誰かに会うんじゃないか、ということも気になってきた。


 だって今日の天野さん、かなりお洒落だったもの……!


 白いニットに、膝丈の黒いスカート。

 そして、黒のロングコート。


 シンプルだけれど、天野さんのスタイルのよさが際立つ服装だ。


 誰かとデート……なんてことは、ないわよね。

 それに今日は誕生日じゃなくて、誕生日前日。

 たとえ誰かに会っていたとしても、誕生日に会いたいと言ってくれた私の方が、天野さんにとっては特別な存在のはず。


 だけど、気になるものは気になる。


 うん。つけるしかないわ。


 軽く深呼吸して、私も慌てて店を出た。





 天野さんはアンジェリックメルティを出ると、そのままショッピングモールを後にした。

 しかし駅へは向かわず、駅地下のデパートへ入っていった。


 誰かと待ち合わせている感じはしないし、買い物にきただけかしら?


 なんか、こうやって後をつけてるのが申し訳なくなってきた。


 そう思いながらも、天野さんがどこへ向かうかが気になって後をつける。

 天野さんはフロアマップを見てから、エスカレーターにのった。


 よかった。

 もしエレベーターにのられてしまったら、これ以上後をつけるのは難しくなってしまうから。


 天野さんは、エスカレーターで4階へ向かった。

 そして、エスカレーターをおりてすぐのところにある手芸屋へ入っていった。


 手芸屋?

 天野さんが手芸を好きなんて、聞いたことないけど……。


 かなり大きな店で、店内はかなり広い。

 それなりに賑わっているから、後をつけることもできそうだ。


 天野さんは毛糸コーナーを通り過ぎて、布コーナーへ向かった。

 そして、何種類もの布を見比べ始める。


 ……そういえばいちごちゃん、ヘッドドレスを作るって言ってたよね。


 どんな色がいいと思う? と聞かれて、結局私は最後に『白がいい』というコメントを送った。

 持っていない色もいいと思ったけれど、いちごちゃんが作る初めてのヘッドドレスは白がよかったから。


 天野さんが今じっくり見ているのも、白い生地だ。


 いやいや、こんなの、ただの偶然よ。


 そう自分に言い聞かせながらも、全身から汗が噴き出る。


 天野さんって、いちごちゃんと顔が似ているし……。


 すう、と一度深呼吸をする。とりあえず、落ち着かないと。


 少しすると、天野さんは店員さんを呼んで布を切ってもらっていた。

 かなり小さいサイズだ。そして、ヘッドドレスを作るにはぴったりのサイズだろう。


 そしてそのまま、天野さんはレースのコーナーに向かう。

 天野さんが選んだのは、真っ赤な可愛いレースだった。


 レジへ向かう前に、なにかを思い出したように天野さんが素早くリボンコーナーへ向かった。

 リボンは、赤い物を選んだみたいだ。太いものと、細いものを二種類購入している。


 布、レース、リボン。

 完全に、ヘッドドレスを作る材料である。


 いやいや、そんな、まさかね……。


 天野さんは会計を済ませると、店を出た。

 そのまま後をつけると、天野さんはデパートを出て駅へ向かった。


 さすがに、これ以上はついていくことはできない。


「……とりあえず、プレゼント買わなきゃ」

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