第57話 プレゼント選び(委員長side)
明日は、待ちに待った天野さんの誕生日だ。
ということで私は、原宿にあるショッピングモールにやってきた。
「あんまりきたことないんだけど、やっぱりここよね」
可愛いものを買うならここ! と前にいちごちゃんも言っていた。
モール内のショップはほとんどが女性向けで、しかも甘いデザインのものが多い。
「えーっと……」
スマホでフロアマップを確認する。
「とりあえず、上から見ていこうかしら」
今日は夕方から塾の授業があるため、開店と同時にやってきたのだ。
だから、ゆっくり見て回る時間はある。
まだ、天野さんにあげるプレゼントは決まっていない。
だからこそ可愛いものがいっぱいあるここにきて、素敵なプレゼントを選ぼうと思ったのだ。
本当はロリータ服でもプレゼントしたいけど、さすがに高すぎるわよね。
私は気にしないけど、普通は同額のプレゼントを相手の誕生日に返さなきゃ、なんて思っちゃうだろうし。
ロリータ系ファッションの服はかなり高い。
ワンピースだけで3万円は基本的にこえるし、ワンピースだけでは着用できないものも多いのだ。
コスプレ喫茶の時の天野さん可愛すぎたし、ああいう可愛い系の物も絶対似合うわよね。
私服は、ああいう感じじゃなさそうだけど。
そんなことを考えながら、モール内を見てまわる。
可愛らしい店があって、なかなか候補を決められない。
値段的に、やっぱりアクセサリーか、コスメとかかしら。
ネットで調べたところ、いわゆるデパコスと呼ばれる少し高めのコスメは、女友達へのプレゼントとしては定番らしい。
しかし好みがあるため、もらうのを嫌がる人もいる……と書いてあった。
アクセサリーの方がいいかしら?
ピアスとか? って、そもそも天野さん、ピアス開けてたっけ。
天野さんがつけているのがピアスなのかイヤリングなのか、改めて考えてみてもよく分からなかった。
本当に、どうしよう……!
♡
悩みながら歩き回っているうちに、私は大半の店を見てまわってしまった。
「あ、このフロア……」
地下1.5階。
ここは、ロリータファッションのブランドが並ぶフロアである。
実際にくるのは初めてだけれど、いちごちゃんがよく話しているところだ。
いちごちゃんが好きだと言っていたブランドの店もある。
可愛い……!
生で見ると、生地がやっぱり安物とは違うわね。
天野さんが文化祭で着ていたワンピースも可愛らしかったが、あれはコスプレ用にインターネットで買った比較的安価な物だ。
本格的なロリータの服とは、やはり違う。
いちごちゃんが着ているのはいつも見てるけど、こんな感じなのね……。
引き寄せられるように、いちごちゃんお気に入りのブランド『アンジェリックメルティ』という店に入る。
「お気に入りのもの、ありましたか?」
すかさず、店の服を着た店員さんが声をかけてくれた。
黒髪ぱっつんのツインテールで、明るい黄色のワンピースがよく似合っている。
うわっ、パニエでスカート部分が膨らんでるの、めちゃくちゃ可愛い……!
配信では、主に上半身しか写らない。
だからこうして、ふわふわと膨らんだスカートを見るのは新鮮だ。
ロリータ服を着たいちごちゃんに、生で会ってみたすぎる……!
「あっ、えっと、その、ちょっと見てみたくて……」
「そうなんですね! 見てるだけでも楽しいですよね。もしなにか気になるものがあったら、教えてくださいね」
店員さんは愛想よくそう言って、私から離れた。
押しつけがましい接客をしてこないのはありがたい。
試しに、目に入った薄ピンク色のワンピースの値札を見てみる。
リボンやレースがふんだんに使われた、甘いデザインのものだ。
6万円……やっぱり高いわ。
いちごちゃんも、この価格帯の商品には手を出せないって言ってたっけ。
……でもこれ、天野さんが着たら似合いそう。
天野さんがこのワンピースを着たところを想像してみる。
ついにやけてしまったのと同時に、私は自分でもびっくりしてしまった。
いちごちゃんより先に、私、天野さんがこれを着る妄想をしてた……?
どくん、どくんと心臓がうるさい。
なんで私、真っ先に天野さんのことを考えたの?
私の思考は、いらっしゃいませ! という店員さんの明るい声で遮られた。
反射的に顔を上げると、新しく店内に入ってきた人が目に入る。
えっ!? 天野さん!?
間違いなく、そこにいたのは天野さんだった。
私は慌てて、とっさに天野さんから見えない場所に隠れた。
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