第56話 どきどきの配信(ギャルside)

「あっ、そうだ! いちご、今日はみんなに相談したいことがあるの!」


 そう言うと、なになに? とみんながすぐに反応してくれる。

 こうやってリアクションをもらえるのは、やっぱり嬉しい。


「いちごね、今度自分でヘッドドレスを作ってみようかと思ってて」


 すごい! とか、天才! なんてコメントが流れてくるのは気分がいい。

 そう言われると、頑張っちゃおうかな、という気になる。


 やっぱり、配信で言うのは正解だったな。

 言っちゃったらもうやるしかなくなるもん。


 委員長にはロリータ好きってことも言ってないから、相談できないし。


 それに委員長に伝える時は、もっとちゃんと、私の気持ちが明確になってからがいい。

 ……夢が見つかったの、なんて伝えられるようになったら、その時はそろそろ、私がいちごだってことを伝えてもいいのかも。


 最近、そんな風に考えている。

 元々、ずっと秘密にしておくことはできないと思っていた。


 でも、私がいちごだと正体を明かすことで、いちごとしてしか見られなくなるのが怖かったのだ。


 だけどもう、委員長と私の距離はかなり縮まった。

 そろそろ、秘密を打ち明ける時期なんじゃないかな。


 ちゃんと自分なりの夢や目標を見つけられたら、伝えても大丈夫だって自信が持てる気がする。

 正体を教えても、委員長がちゃんと、私を天野翼として見てくれるって。


「それでね、みんなに相談っていうのは、どんなヘッドドレスを作るかってことなの。

 今、色とかサイズとか、悩んでるんだよね」


 白! 黒! ピンク! と、色だけを書いたコメントがたくさん流れてくる。

 ありがとう、と言いながら、私はストロベリーナイトさんのコメントを待った。


『白! って言いたいところだけど、いちごちゃんが持ってない色がいいかな?

 私が知ってる限りだけど、青とか緑系のは持ってないよね?』


 短いコメントが多い中で、ストロベリーナイトさんの長文コメントはかなり目立つ。


 ってか、委員長、私が持ってるヘッドドレスの種類まで把握してるんだ……。


 新しい物を買うと、私は浮かれてすぐに配信でつけたり、自撮り写真をのせたりする。

 だから私の投稿や配信を全てチェックしていれば、私が持っているロリータ関連の物を完璧に把握できるはずだ。


 でも、すぐにコメントで打てるなんて、やっぱりストロベリーナイトさんはさすがだな。

 他のファンの人とは、熱量が違うっていうか。


 ……その正体が、私の好きな人なんだけど。


 改めてそう考えると、鼓動が急激に速くなってしまった。

 どきどきしすぎて、おかしくなってしまいそうだ。


 だって、やばくない?

 私の好きな人が、私の最古参・最熱狂オタクなんだよ?


「みんなコメントありがとう! 可愛い色っていっぱいあるし、悩んじゃうよね」


 委員長は、やっぱり白がいいのかな。

 それとも、持ってない色がいいのかな?

 正直、直接聞いちゃいたい。


「手芸屋さんで実際の生地も見て、いろいろ考えてみる。

 あっ、後からちゃんと、みんなのコメントで何が多かったかも見るからね?」


 そう言うと、また希望の色を言うコメントがいっぱい流れてきた。

 後で、ストロベリーナイトさんの他のコメントがないかも、ちゃんと確認しなきゃ。


「じゃあ、そろそろ今日の配信は終わるね!

 みんな、きてくれてありがとう。いちご、みんなとお話できて、とっても幸せだったよ!」


 カメラに近づいて、大きく手を振る。

 全力で可愛い笑顔を保ちながら、配信修了のボタンを押した。




「……あー、やっぱり、どきどきした……」


 呟いて、近くにあった苺のクッションを思いっきり抱き締める。


「いちごだってバラせば、付き合ってくれたりしないかな」


 いやいや、なに考えてんの、私。

 いちごじゃなくて、天野翼自身を好きになってもらいたいって、ずっと思ってきたのに。


 でも、振られるくらいなら、いちごってことを利用してでも委員長と付き合いたい。


 なりふり構ってられなくなりそうなくらい、私はもう委員長のことが大好きだから。

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