第55話 まずは簡単な物から!(ギャルside)

「やっぱり、最初からワンピースを作るのはハードルが高いよね」


 家に帰ると鞄を放り出し、この前買った『ロリータの作り方』という本を広げる。

 最近の私の日課だ。


 他にも服を自作している人の動画を見てみたり、ネット記事を読んでみたりしている。


 その結果、服を作るのがかなり面倒くさそうなことも、同時にとても楽しそうなことも分かってきた。


 だって、自分好みの物が作れるし、世界で1つしかない物ができるんだもん。


 私も、私だけの可愛いロリータ服を作ってみたい。

 だけど、やっぱりハードルが高すぎる。


「布もたくさんいるし、レースとかもいるよね」


 手芸屋を見てみたが、布はかなり高いみたいだ。レースも、可愛いものを満足するまで買えばかなりの金額になる。


「正直今、そんなお金ない……!」


 それに、私の家にはミシンもない。ミシンを買うならもっとお金がいるし、全てを手縫いで行うのは大変らしい。


「いろいろ考えたけど、やっぱりどっちかよね」


 既製品にアレンジを加える形で新しい服を作るか、まずは簡単な小物類から作成してみるか。


 私がとれる選択肢はその2つくらいだ。


「どっちがいいかな。でもやっぱり、既存品にって言っても、なかなか難しいよね」


 シンプルなワンピースを買えば安く済むかもしれないけれど、その分たくさんのアレンジを加えなきゃいけなくなる。

 かといって既に可愛い物を買えば、自分でできることが少なくなってしまう。


「やっぱり、小物から作ってみようかな」


 それなら材料費も安く済むし、やりやすいはず。


「うん、まずはやってみよ!」


 何にしようかな、と考えながら本のページをめくる。

 ありがたいことにこの本には、小物類の作り方も少しのっているのだ。


「ヘッドドレスとかいいかも!」


 それほど難しくなさそうだし、手元や足元の小物と違って、配信や自撮りの時も必ず映る。


 うん、ばっちり。そうしよ!





「あー、やばいやばい、もうすぐ配信の時間だ……!」


 鏡の前に立ち、いちごとして身なりを整える。

 今日私が着るのは、苺柄の可愛らしいワンピース。いちご、という名前にぴったりなこともあって、配信初期によく着ていたものだ。


 もちろん、ウィッグはいつも通りのパステルピンク。

 そして、ヘッドドレスは赤い生地に白いレースがたっぷりと縫い付けられたもの。


「うん、今日も可愛い!」


 とりあえず、配信前に自撮りしておく。

 納得いく写真が撮れたところで、リングライトの前に移動する。


 今日も委員長、見てくれるかな。


 最近はかなり勉強が忙しくなったみたいだけれど、それでも配信をすると、毎回コメント欄にストロベリーナイトさんが現れる。

 委員長だと分かってコメントを見るのは、結構照れくさい。


 委員長がいたら恥ずかしい。でも、いなかったら、絶対がっかりしちゃう。

 あーもう、だめだ。

 いちごの配信を楽しみにしてくれている人は他にもいるのに、委員長のことばかりを考えてしまう。


「だめだめ。ちゃんと、配信に集中しなくちゃ!」


 両手で頬を軽く叩き、気合を入れなおす。

 今から私は、天野翼ではなく、いちごになるのだから。


 深呼吸をして、配信をスタートさせる。

 事前に宣伝していた通りの時間だから、すぐに何人かが配信に参加してくれた。


「みんな、今日もいちごに会いにきてくれてありがとう!」


 そう言うと、いろんな人がコメントをしてくれる。

 ストロベリーナイトさんがいたか気になるけれど、すぐにコメントが流れてしまって、確認できなかった。


「苺の国のお姫様、みんなに癒しを届けるいちごちゃんだよ!」


 定番となった挨拶をする。すると、スパチャ付きのコメントが流れてきた。


『そのワンピース、前はよく着てたよね! いちごちゃんにぴったりだし、いちごちゃんのために作られたとしか思えない!』


 ストロベリーナイトさんだ……!


「ありがとう、ストロベリーナイトさん。ずっと応援してくれてて、本当に嬉しいな! これからも、いちごをちゃんと愛してくれないとやだよ?」


 精一杯の甘え声でそう言うと、ストロベリーナイトさんはまたすぐにスパチャ付きコメントを投げてくれた。


『永遠の愛を誓います、いちごちゃんに』


 嬉しい。嬉しいんだけど……ちょっと複雑、かも。

 画面の向こうで今、委員長はどんな顔をしてるんだろう?

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