第52話 一人きりの時間(ギャルside)

「……暇だな」


 委員長を駅まで見送って、お母さんが帰ってくるまで二度寝した。

 そしてお母さんと一緒に昼食をとったのだが、お母さんが眠るとやることがなくなってしまった。


「配信……は、今日はちょっと厳しいし」


 少し前まで配信の曜日は固定していたけれど、最近は不定期になりつつある。

 お母さんのシフトが変わったからだ。


 自分の部屋があるとはいえ、壁はかなり薄い。

 お母さんがいる時に配信すればお母さんの声や生活音が入ってしまいそうだし、なにより、いちごの声を聞かれるのも恥ずかしい。


「久しぶりに、ふらっと出かけてみようかな」


 いつもは、用事がない時は家にこもっていることが多い。

 出かければお金を使ってしまうから。


 でも今日は、気分を変えてみるのもいいかもしれない。


「そうすれば、私にだってなにか、見つかるかもしれないし!」


 そうと決まれば家を出よう。

 私は小さなバッグにスマホと財布だけを詰め、動きやすいラフな格好で家を出た。


「どこ行こう」


 定期券もあるし、電車に乗って大きな商業施設に行ってもいい。


 でもなぜかそんな気分にはならなくて、結局少し歩いたところにある小さなショッピングモールに行くことにした。


「委員長は今頃勉強してるんだろうなぁ」


 すごいな、と思いつつ、案内図を眺める。


 服を買うなら原宿がいいし、アクセサリー類にしたってそうだ。

 カフェも、一人で入るのはなんかもったいないし。


「あ!」


 3階に本屋がある。

 滅多に行かないけれど、今日の私にはぴったりな気がした。





 本屋に入ってすぐに目についたのは赤本コーナーだ。

 たぶん、受験シーズンが近づいて、目立つ場所に置かれるようになったのだろう。


「委員長、どこの大学受けるんだろ」


 医学科だということは分かったけれど、どこの大学なのかは分からない。

 もし地方の大学に委員長が行けば、少なくとも4年間は離れ離れになってしまう。


「あれ? 医学科って4年じゃないんだっけ……」


 確か違ったような気もする。

 スマホで調べてみると、どうやら6年制らしい。


「遠距離恋愛か」


 いや、まだ恋愛は成立していないんだけど。


 でも、もし遠くへ行ってしまった場合、ただの友達では気軽に会えないかもしれない。


 やっぱり、ちゃんと委員長の恋人にならなきゃ。


 名前を知っている大学の赤本を何冊か手にとってみたが、問題文の長さに溜息を吐いてしまう。


 今から約2年後に、自分が解けるようになっているとは思えない。


「やりたいこともあるわけじゃないしなぁ」


 みんながみんな、勉強したいことがあって大学へ行くわけじゃない。

 そんなことは知っている。


 なんとなく行く人や、就職のために行く人も多いだろう。


「でも、なんとなく行くのもな……」


 お母さんに負担をかける上に、きっと奨学金も借りなければいけない。

 なんとなく、なんて無理だ。


「好きなもの……ロリータだけど」


 コスメやアクセサリーも好きだけれど、やっぱり一番はロリータだ。

 見ているだけでわくわくするし、着ると幸せになれる。


 次はどんなのを買おう、なんて妄想するだけでも楽しいのだ。


「……作る、とか?」


 もし自分であんなに可愛い服が作れたら、どんな気持ちになるだろう。


 いやいや、私は裁縫なんてできないし、デザイナーなんて誰でもなれるような仕事じゃないし……!


 そう思いながらも、私の足は服飾コーナーへ向かった。

 どきどきしながら、目についた本を手にとる。


 もし。

 もし私にもやりたいことや目指したいものができたら、委員長みたいに頑張れるのかな。

 委員長みたいな、素敵な子になれるのかな。


 委員長と付き合いたい。

 委員長に釣り合う人間になって、ずっと隣にいたい。


 私は、『ロリータの作り方』という本に視線を向けた。


「……まず、読んでみようかな」


 財布には、あんまりお金は入ってない。

 でも、今はお金を使うべき時だと思う。


 本を持って、私はレジへ向かった。

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