第51話 やっぱり、すごい(ギャルside)

「……わっ」


 いつの間にかうとうとしてしまっていた。

 慌てて時計を見ると、もう午前6時だ。


 もう、始発も動いてる時間じゃん!


 昨日は委員長といろいろ話をして、話しているうちに、二人そろって寝落ちしてしまったらしい。

 横を見ると、委員長が私の肩に頭をのせて眠っている。


 か、可愛い……!


 寝顔は、いつもよりだいぶ幼く見える。

 それに、無防備な姿がいい。私のことを信頼してくれてるんだって、伝わってくるから。


 ……ちょっとなら、いいよね?


 うん、と自分で頷いて、委員長の頬をそっと人差し指でつついてみる。

 すると、ううん……と委員長が可愛い声を漏らした。


 なんか、いけないことをしてる気分かも……!


 次は反対側、と反対側の頬をつつこうとしたところで、委員長が目を開いた。


「天野さん、なにしてるの?」

「……委員長のこと、起こそうと思って」

「そう」


 よかった。私が委員長の頬をつついて楽しんでたことはバレてないみたいだ。


 なんて思ったのは一瞬だけ。

 今度は委員長が私の頬をつついた。


「おかえし」


 そう言って、悪戯っぽく委員長が笑う。

 可愛すぎる返しに、鼓動が速くなってしまった。


「天野さん、私、そろそろ帰るわね」


 言いながら委員長は立ち上がると、ちらばっていたお菓子のゴミを手早く片付けてくれた。


「え? もう帰っちゃうの?」


 お母さんが帰ってくるまでにはまだ時間がある。

 それに元々、今日は委員長と遊ぶ予定で一日中予定を空けていたのだ。


「うん。ごめんね。予定も変更することになっちゃって」

「それは仕方ないけど……」


 本当は、ちょっと寂しい。

 今から予定通り遊びに行く元気は残っていないし、そうしないだろうとは思っていたけれど。


「いろいろ考えたんだけど、私、決めたわ」


 そう言った委員長の顔は晴れ晴れとしていて、とても綺麗だった。


「すぐには無理かもしれないけど、母親の顔色を窺わずに生きていけるようになりたい」

「委員長……」

「だから、もっと頑張るって決めた」

「……委員長、もう頑張ってるじゃん」


 この前だって、模試のために睡眠時間を削ってまで努力していた。

 そんな委員長が、まだ頑張らなければいけないのだろうか。


「ありがとう。でもね、私、きっと親に言われたら気にしちゃうの。

 うるさいって思いながらも、私ってだめだな……なんて、きっと落ち込んじゃう」


 委員長は目を伏せた。


 委員長はすごいよ、って、きっと私がいくら言ってもだめなんだろうな。

 気持ちが届かない、なんて諦めたわけじゃない。

 ただこれは、委員長の心の問題なのだろう。


 そして委員長はこの問題を解決するために、『もっと頑張る』という手段をとることにしたのだ。


 本当にすごい。すごくて、強い。


「だから、お母さんに文句を言わせないくらい、もっといい成績をとってみせる。私にとっても悪いことじゃないし。

 その上で、天野さんともいっぱい遊ぶわ。いちごちゃんの配信だって見まくる。

 好きなことをして、好きなようにするの。

 だけど結果を出していれば、お母さんだって文句は言えないはずよ」


 結果を出さなければ、文句を言われても仕方ない。


 委員長の発言は、裏を返せばそう言っているみたいだ。

 私はそれが正しいとは思わない。

 でも、委員長が悩みぬいた末に出した結論は応援したい。


 人の考え方って、すぐには変わらないもんね。


 いつか委員長が、結果なんか出さなくたって、無条件に自分を認めてあげられるようになったらいいな。


「応援してるね、委員長。

 疲れたら、私が甘やかしてあげる」


 私は結果が出せなくたって、委員長のことが大好きだから。

 だから委員長が悲しかったり、寂しい時は、抱き締めて大丈夫だよって言ってあげたい。


 本当はそれだけじゃなくて、もっと先の関係になりたいけど。


「ねえ、委員長。帰るんでしょ? せめて、駅まで送らせてよ」

「いいの? 外、寒いけど」

「私がちょっとでも長く委員長と一緒にいたいだけ」


 ここまで言えば、委員長もさすがに感づいているだろうか。

 私が、委員長を恋愛的な意味で好きだってこと。


「手繋いで、駅まで歩こ?」


 委員長が私のことを、恋愛的な意味でどう思っているかは分からない。

 だから私も、もっと頑張ると決めた。

 委員長に、好きになってもらえるように。

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