第50話 友情?それとも……(委員長side)

 ゆっくりと天野さんから離れると、天野さんは明るい笑顔を浮かべた。


「本当にありがとう、委員長。なんか、心が軽くなった気がする」

「私もよ、天野さん。ありがとう」


 話をして、お互いに問題が解決したわけじゃない。

 でも、今まで伝えていなかったことを口にして、心が軽くなった。


「ねえ、委員長」

「なに?」

「この機会に、一個だけ聞いてもいい?」

「いくつでも」


 ありがとう、と言って天野さんは軽く深呼吸をした。

 笑顔だけれど、どこか緊張しているようにも見える。


「委員長は……今まで、彼氏とかいたことある?」

「……え?」


 いきなりの話題転換にびっくりしてしまう。


 女子は恋バナ好きな子が多いって言うけど、今?


「今は彼氏、いないよね?」


 どうしたの急に、なんて笑えるような雰囲気じゃない。天野さんの目は真剣そのものだ。


 どうして私に、こんなことを聞くの?


「……いないよ。今までいたこともない」


 私がそう答えると、よかった、と天野さんは笑顔になった。

 どうして? と聞けないのは、きっと私が臆病だから。


「天野さんは今、彼氏いるの?」

「ううん。いないよ、恋人」


 天野さんがわざわざ彼氏ではなく恋人と言った意味を考えてしまう。


 それって……もしかして、そういうことだったりする?


 今まではどうなの、とは聞けなかった。聞くのが怖いのだ。


 天野さんは可愛いし、明るいし、友達だって多い。付き合っていた人が何人もいたって、全くおかしくない。


 でも私、知りたくないの。


 昔のことだとしても、天野さんから恋人の話なんて聞きたくない。

 私以外に特別な人がいたなんて、知りたくない。


 これって、嫉妬よね。

 ……この気持ちは、友達として?


 友達同士でも、私以外の子と仲良くしてほしくない、と思うことはあるだろう。

 そういう理由でトラブルになったという話も、何度も聞いたことがある。


 でも、今の私もそうなのかしら。


 私は友達が少ない。嫉妬するような、互いに一番仲良しだと言えるような友達なんていなかった。

 いや、今だって、一番だなんて自信はない。


 だからこの気持ちが友達に向けたものなのか、もっと違う感情なのか、私にはまだ分からないのだ。


「そういえばさ、委員長」

「なに?」

「私、来週誕生日なの」

「えっ?」


 いきなり話題が変わったことだけじゃなく、あまりの近さにびっくりする。


「来週のいつ?」

「日曜日。12月12日」


 可愛い子って、誕生日まで可愛いんだ。


 天野さんって、冬生まれだったのね。

 なんとなく夏っぽい気がしてたけど、考えてみれば冬も似合う気がする。


「ちょっとでいいから、委員長に会いたいな」

「天野さん……」

「特別な日だから、委員長と過ごしたいの。あっ、夜はお母さんとパーティーしなきゃいけないんだけど」


 きっと、天野さんのお母さんはとびきりの御馳走を用意してくれるんだろう。

 気持ちのこもった、愛情たっぷりの誕生日パーティー。


 正直、羨ましい。

 でもそれ以上に、天野さんが母親からの愛情をたくさんもらっていることが嬉しい。


 特別な日だから、私と一緒に過ごしたい……か。

 ものすごく熱烈な口説き文句のようにも思える。


「絶対に会いたいわ」


 来週も遊びに行く、なんてことがお母さんに知られたら、きっと大変なことになる。

 でももう、そんなことは知らない。


 だって、大好きな子の誕生日を祝う以上に大事なことなんて、そんなにないもの。


 天野さんへの気持ちは、まだはっきりとはしていない。

 けれど、天野さんが大好きなことは確かだ。そしてその気持ちは、どんどん強くなっている。


「天野さんの特別な日、私に祝わせて」

「……うん」


 とろけそうなほど甘い声で言って、天野さんは頷いた。

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