第47話 二人きりの夜(ギャルside)

「ここが、私の家」


 ぼろいアパートの前で立ち止まる。

 委員長が、少しだけ戸惑ったような顔をした気がする。


 私たちは近くのコンビニで飲み物を買って、ここへやってきた。

 ぎゅ、とコンビニの袋を強く握り締める。


「ぼろいでしょ! 私、実は貧乏なの。恥ずかしいから、あんまり家に人呼ばないんだけど、委員長は特別だよ?」


 わざとらしいほど大きな声になってしまった。

 だけど、他にどう言えばいいのか分からなかったのだ。


 委員長は、自分のことをちゃんと話してくれた。

 だから私だって、委員長に話したい。


「あ、でも安心して。部屋の中は結構、綺麗にしてるから」

「そんな……連れてきてくれて、ありがとう」


 委員長、どう言っていいか悩んだんだろうな。

 そりゃあそうだよね。友達の家をぼろい! なんて笑うタイプじゃないし。


 委員長のお母さんは厳しいみたいだけど、実家が病院ってことは、きっと立派な家に住んでるんだろうな。


 こんなアパート、きっと入ったこともないんだろう。


 委員長は委員長で、きっと家のことで悩んでる。

 でもやっぱり私と委員長は、生まれ育った環境が全然似てないんだろう。


「2階なの、うち。階段しかなくてごめんね」

「ううん、全然。2階ならすぐだし」


 二人で階段をのぼる。

 階段が汚れていることとか、手すりがないこととか、普段なら気にならないようなことが今日は気になってしまう。


 玄関の扉を開け、中に委員長を招き入れる。

 きちんと掃除はしているはずなのに、いつもより汚く見えちゃうのはどうしてだろう。


「狭いけど、一応私の部屋もあるの。お母さんと二人暮らしだから」

「そうなんだ……」

「うん。私が小さい時に、親が離婚してるんだよね」


 気にしてないです、って顔を作って委員長に言う。

 委員長は頷いただけで何も言わなかった。


「貧乏で、ぼろい家に住んでて、近所のスーパーでバイトしてるの。

 クラスのみんなが知ったら、どう思うかな」


 言いながら、コンビニの袋からコーラのペットボトルを取り出す。

 キャップを外して、3分の1くらいを一気に飲んだ。


「……クラスのみんながどう思うかは分からないけど、私は、何も思わないわ」


 委員長はそう言って、私の目をじっと見つめた。


「天野さんは天野さんでしょ」

「……それ、委員長が言うの?」


 私の言葉に、委員長はくすっと笑った。

 その笑顔になんだか安心する。


 家庭環境と、本人は別もの。


 確かにその通りだ。でもそれと同時に、確実に影響を受けているものでもある。


 もし貧乏じゃなければ、私はスーパーでバイトなんてしなかっただろう。

 もっと友達を家に呼んで遊んでいたかもしれない。


 もしかしたら……。

 もしかしたら、現実を忘れて、『いちごちゃん』になんてなっていなかったかもしれない。


「私にとっては、委員長は委員長だよ」


 親に言われたから厳しく勉強しているのだとしても、頑張ってきたのは委員長自身だ。


 そして、私が好きになったのも委員長自身だから。


「ねえ、委員長。今日はたっぷり話そうよ。どうせ、二人しかいないんだから」

「……天野さんの、お母様は?」


 遠慮がちに委員長が聞いてくる。


「今日は夜勤だから、昼前に帰るよ」


 元々、明日は二人で遊びに行く予定だった。

 でも、予定通りにならなくてもいい。


「いっぱい話して、疲れたら、一緒に寝よっか」


 うん、と委員長が頷いてくれた。

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