第43話 癒してあげたい(ギャルside)

 最近、委員長は明らかに疲れている。

 原因は明白だ。塾で受ける模試に向けて、毎日勉強をしすぎているから。


 ちゃんと寝てる……なんて言ってるけど、さすがに分かる。

 目の下のクマは隠しきれてないし、顔を見れば、それくらい分かるって。


「だけど、勉強するな! なんて強く言えないしなぁ」


 休むのも大事だよ、とは伝えているものの、なかなか難しい。

 それに、私と一緒にいる時はちゃんと勉強の手を止めてくれるのだ。


「……相変わらず、配信にも皆勤だし」


 あれほど疲れがたまっていそうなのに、昨日の配信にもストロベリーナイトさんはきてくれた。

 そしていつものように大量にコメントし、スパチャもしてくれたのである。


「どうにかして、委員長を癒してあげられたらいいんだけど」





「委員長、これあげる!」


 鞄からラッピングされたカップケーキを取り出し、委員長の机に置く。

 委員長はポカンとした顔でカップケーキを見つめた。


「……これは?」

「私が作ったの」

「えっ?」


 委員長がカップケーキを手にとり、いろんな角度から観察する。


「ちょっと、そんなにじっくり見ないで!」


 わりと上手くできたけれど、完璧じゃない。

 お菓子作りなんて日頃は全くしないのだ。


「売り物みたい」

「さすがに褒めすぎ」

「だって、本当にそう思うんだもの」


 委員長はうっとりとした瞳でカップケーキを見つめた。


「それに、天野さんの手作りっていうのが嬉しい。ありがとう」

「委員長……」


 こんなに喜んでくれるなら、作った甲斐があった。

 

 疲れた時は甘い物。


 そう思って、私は委員長にお菓子をあげることにしたのだ。

 本当はゆっくりできるような場所へ一緒に行きたかったけれど、勉強時間を奪うわけにはいかないから。

 委員長のことだ。もし遊べば、その分さらに夜遅くまで勉強してしまうに違いない。


「もったいなくて、食べれないかも」

「今すぐ食べて」


 そんな、と言いながらも、委員長はラッピングをとってカップケーキにかぶりついた。

 美味しい、とすぐに言ってくれたのが嬉しい。


「手作りのお菓子なんて、初めて食べたかも」

「……そうなの?」

「うん」


 温かい味がする、と委員長は微笑んだ。


「頑張るのは偉いけど、ほどほどにしなよ」

「ええ。分かってる」


 全然分かってなさそうな表情で頷かれても、もっと心配になるだけだ。


 でも、目標に向かって頑張る委員長のことは応援したい。


「やっぱりすごいな、委員長は」


 将来のことなんて何にも考えられない私とは全く違う。

 同い年なのに、私より何歩も先を歩いているみたいだ。


「ねえ、天野さん」

「なに?」

「日曜日、すごく楽しみにしてるから」


 委員長の声は弾んでいて、その言葉が事実だと教えてくれる。


「私だって、めちゃくちゃ楽しみにしてるからね」

「ありがとう。私、日曜日が楽しみだから、こうやって頑張れてるの」

「委員長……」

「天野さんのおかげなの。だから、本当にありがとう」


 そう言うと、委員長は赤くなった頬を隠すように俯いてしまった。


 私、少しは委員長の助けになってるのかな。

 いちごちゃんだけじゃなくて、天野翼も、委員長を癒してあげられているのかもしれない。


「日曜日は、とことんゆっくりしようね」

「ええ」


 美味しい物を食べて、のんびりとした時間を過ごす。

 特別なことなんてしなくていい。委員長といれば、それだけできっと幸せだから。

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