第40話 次の約束(ギャルside)
食後もドリンクバーで居座り続け、もう21時半過ぎになってしまった。
「そろそろ帰らないとまずいでしょ?」
「私は別に大丈夫だけど」
「天野さん、家遠いじゃない」
そう言わると言い返せない。
別に帰る時間がいくら遅くなってもいいのだけれど、きっと委員長は反対するだろうから。
乗車時間を考えると、そろそろ店を出た方がいいのは確かだ。
「行こうか」
委員長が伝票を持って立ち上がる。
名残惜しいけれど、帰らないわけにもいかない。
♡
会計を済ませて外に出ると、もうすっかり暗かった。
もうすぐ冬になるから、だんだん日が短くなっていっているのだ。
来年には絶対、委員長と違うクラスになっちゃうんだろうなぁ。
考えるだけで寂しくなる。
「ねえ、委員長」
「なに?」
「次いつ空いてる? 遊べる日、決めちゃおうよ」
日程の調整なんていつでもできる。
家に帰ってからLINEをすればいいし、学校の休み時間に話してもいいのだから。
でもなぜか、今次の約束をしてしまいたいのだ。
「そうね。決めちゃった方が楽だし」
委員長が鞄から手帳を取り出し、私はスマホでスケジュールアプリを開いた。
お互いの予定を見て、とりあえず二週間後の日曜日に決めた。
「どこ行くかとかは、また話そう」
そうすれば、Lineをする口実ができるから。
あっという間に駅に到着して、ばいばい、と手を振って別れた。
遠ざかっていく委員長の背中を、立ち止まって眺める。
待って、と言いたくなるのを必死に我慢した。
本当は今すぐ引きとめて、もう少し話していたい。
「……まあまあ順調、だよね?」
二人きりで打ち上げをして、次の約束もちゃんとしたのだ。上出来だろう。
「とりあえず、帰ろ」
♡
「ただいま」
挨拶はしたものの、お母さんは夜勤だから家には誰もいない。
最近夜勤の日数が増えているのは、きっと気のせいでも偶然でもない。
「私の進路のこととか、考えてくれてるんだろうな」
お母さんは私に勉強しろ、とか、いい大学に行け、なんて言わない。
進路の話が出るたびに、私が好きなようにすればいいと言ってくれる。
そして私が好きな進路を選べるように、お母さんはお金を貯めようとしてくれているのだ。
荷物を置くと、どっと疲れが押し寄せてきた。
今すぐ眠ってしまいたいけれど、風呂に入らずに眠ることはできない。
「……委員長の家って、どんな感じなんだろう」
入浴の準備をしながら想像してみる。
マンションじゃなくて一軒家だろうか。もしマンションだとしても、きっと煌びやかな高層マンションだろう。
私の家を見たら、委員長はどう思うんだろう。
古い? ぼろい? 汚い?
委員長がそんな風に言うはずはないと分かっているけれど、どう感じるのかまでは分からない。
私が友達を家に呼ばないのは、家を見られたくないからというのもある。
そんなこと、お母さんには絶対言えないけれど。
私はお母さんが好きだし、このマンションだって嫌いじゃない。
古くてぼろい上に駅も遠いけれど、ちゃんと自分の部屋はあるし。
でも、他の人がどう思うかは別だ。
「委員長は、付き合うならどんな子がいいんだろう……」
友達に求める条件と恋人に求める条件はきっと違う。
生まれ育った環境とか、家庭環境を重視する人だって多いだろう。
そもそも、委員長のように真面目な人が、同性と付き合うという選択をするのだろうか?
「あーもう、せっかく楽しかったのに、こんなこと考えるのやめよ!」
頭を大きく振って、マイナスな考えを追い払う。
ネガティブな思考になるのは、きっと疲れているからだ。
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