第40話 次の約束(ギャルside)

 食後もドリンクバーで居座り続け、もう21時半過ぎになってしまった。


「そろそろ帰らないとまずいでしょ?」

「私は別に大丈夫だけど」

「天野さん、家遠いじゃない」


 そう言わると言い返せない。

 別に帰る時間がいくら遅くなってもいいのだけれど、きっと委員長は反対するだろうから。


 乗車時間を考えると、そろそろ店を出た方がいいのは確かだ。


「行こうか」


 委員長が伝票を持って立ち上がる。

 名残惜しいけれど、帰らないわけにもいかない。





 会計を済ませて外に出ると、もうすっかり暗かった。

 もうすぐ冬になるから、だんだん日が短くなっていっているのだ。


 来年には絶対、委員長と違うクラスになっちゃうんだろうなぁ。


 考えるだけで寂しくなる。


「ねえ、委員長」

「なに?」

「次いつ空いてる? 遊べる日、決めちゃおうよ」


 日程の調整なんていつでもできる。

 家に帰ってからLINEをすればいいし、学校の休み時間に話してもいいのだから。


 でもなぜか、今次の約束をしてしまいたいのだ。


「そうね。決めちゃった方が楽だし」


 委員長が鞄から手帳を取り出し、私はスマホでスケジュールアプリを開いた。


 お互いの予定を見て、とりあえず二週間後の日曜日に決めた。


「どこ行くかとかは、また話そう」


 そうすれば、Lineをする口実ができるから。


 あっという間に駅に到着して、ばいばい、と手を振って別れた。

 遠ざかっていく委員長の背中を、立ち止まって眺める。


 待って、と言いたくなるのを必死に我慢した。

 本当は今すぐ引きとめて、もう少し話していたい。


「……まあまあ順調、だよね?」


 二人きりで打ち上げをして、次の約束もちゃんとしたのだ。上出来だろう。


「とりあえず、帰ろ」





「ただいま」


 挨拶はしたものの、お母さんは夜勤だから家には誰もいない。

 最近夜勤の日数が増えているのは、きっと気のせいでも偶然でもない。


「私の進路のこととか、考えてくれてるんだろうな」


 お母さんは私に勉強しろ、とか、いい大学に行け、なんて言わない。

 進路の話が出るたびに、私が好きなようにすればいいと言ってくれる。


 そして私が好きな進路を選べるように、お母さんはお金を貯めようとしてくれているのだ。


 荷物を置くと、どっと疲れが押し寄せてきた。

 今すぐ眠ってしまいたいけれど、風呂に入らずに眠ることはできない。


「……委員長の家って、どんな感じなんだろう」


 入浴の準備をしながら想像してみる。

 マンションじゃなくて一軒家だろうか。もしマンションだとしても、きっと煌びやかな高層マンションだろう。


 私の家を見たら、委員長はどう思うんだろう。


 古い? ぼろい? 汚い?


 委員長がそんな風に言うはずはないと分かっているけれど、どう感じるのかまでは分からない。


 私が友達を家に呼ばないのは、家を見られたくないからというのもある。

 そんなこと、お母さんには絶対言えないけれど。


 私はお母さんが好きだし、このマンションだって嫌いじゃない。

 古くてぼろい上に駅も遠いけれど、ちゃんと自分の部屋はあるし。


 でも、他の人がどう思うかは別だ。


「委員長は、付き合うならどんな子がいいんだろう……」


 友達に求める条件と恋人に求める条件はきっと違う。

 生まれ育った環境とか、家庭環境を重視する人だって多いだろう。

 そもそも、委員長のように真面目な人が、同性と付き合うという選択をするのだろうか?


「あーもう、せっかく楽しかったのに、こんなこと考えるのやめよ!」


 頭を大きく振って、マイナスな考えを追い払う。

 ネガティブな思考になるのは、きっと疲れているからだ。

 

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