第39話 もしもの時は(ギャルside)
「あ、委員長、きたよ!」
注文していたハンバーグ定食が、猫のロボットによって運ばれてくる。
なんだか可愛くて、いつもついにやけてしまう。
「これ、可愛いよね」
「……最近のファミレスって、進化してるのね」
委員長はびっくりしたような顔で猫のロボットを凝視している。
私からすればもうおなじみの物だけれど、委員長にとっては新鮮なんだろう。
「美味しそう」
「ね。こういうのって、作るってなると大変だし」
定食はメインの料理だけじゃなくて、味噌汁やサラダ、漬け物もついてくる。
家で用意しようとすると結構面倒なのだ。
だから外食するとつい、定食系のメニュー頼んじゃうんだよね。
「天野さん、料理したりするの?」
「たまにね。お母さんが疲れてる時とか」
基本的にはお母さんが用意してくれるけど、私が用意することもある。
まあ、凝ったものはできないんだけど。
「……すごい」
「そんなことないよ」
「私、買ってばかりだから」
そういえば委員長の昼ご飯って、ほとんどコンビニ商品な気がする。
育ちも良さそうだし、毎日母親の手作りのお弁当でも持ってきてそうなのに。
猫のロボットからトレイにのったハンバーグ定食を受けとる。
「じゃあ、食べよっか」
「ええ」
いただきます、と手を合わせてから食べ始める。
何度か食べたことのある味なのに、委員長と一緒に食べると新鮮な気がした。
「美味しい」
「でしょ? ファミレスも結構いいよ」
「そうね。……またこない?」
食事をしながら、なんでもないような顔で委員長はそう言った。
けれど声のトーンでなんとなく、委員長が緊張しているのは伝わってくる。
「もちろん。この辺にあるファミレス、制覇しちゃう?」
「うん、制覇しようか」
実行委員会議はもうないし、こうやって放課後も一緒に過ごせる機会を増やしていきたい。
♡
食事を終えると、委員長は鞄からスマホを取り出した。
画面を見て、表情がかたくなる。
「どうかした?」
「……ちょっと」
悪いかな? と思いつつ、身を乗り出して画面に視線を向ける。
そこには、12件も不在着信が入っていた。
「電話してくる?」
「いや……ううん、いいや」
委員長はそう言うと、スマホの電源を落とした。
そのままスマホを鞄にしまい、コップに入っていたジュースを一気に飲み干す。
いいのかな、あんなに電話きてたのに。
でも、私に気を遣っているというより、単純に電話に出たくないように見える。
誰からの電話だろう。
私、聞いてもいいのかな?
「電話、母親からだったの」
聞くよりも先に、委員長がぼそっと呟いた。
目が合うと、少しだけ疲れたような顔で微笑んで、すぐに目を逸らされる。
委員長のこんな顔、初めて見たかも……。
「塾サボったのがバレたんじゃないかな。もう授業始まってしばらく経ってるし」
「……そっか」
塾をサボったのって、そんなに早くバレるものなんだ。
私は、塾になんて通ったことがないから分からない。
それに私の友達は塾をサボっても、平気で笑ってるような子が多かったし……。
塾に通っている友人もそれなりにいる。
だけど、遊ぶためにサボることも珍しくないような子たちだ。
委員長みたいに真面目な子が塾に行かなかったら、そりゃあ心配するよね。
サボりじゃなくて、なにかあったのかって心配するかもしれないし。
でも、委員長の表情が暗いのが気になる。
委員長って……あんまり親と仲良くなかったりするのかな。
「委員長、あのさ」
いきなり、家族の話に口を突っ込む気はない。
でも、もし……。
「なんかあったら、言ってね。たいしたことはできないけど」
「天野さん……」
「こうやって一緒にご飯を食べるくらいなら、いつでもできるから!」
ありがとう、と言った委員長の声は少し震えている気がした。
「とりあえず今日、遅くまで付き合ってもらおうかな」
「もちろん! 終電さえ間に合えばオッケーだし!」
さすがにそれは遅すぎる、と言った委員長の声は、もういつも通りのものに戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます