第36話 文化祭の終わり(ギャルside)
「ようやく終わった……!」
文化祭終了を告げるチャイムの音が鳴った瞬間、その場に座り込みそうになった。
さすがに白いワンピースで床に座ることなんてできないから、我慢したけど。
「お疲れ様、天野さん」
「委員長もね」
私たちのクラスは終始大盛況で、シフトに入っている時間は全く休みがなかった。
バイトのおかげで接客業には慣れているつもりだったが、普段とは別物だ。
だってずっと笑顔でいなきゃいけないし、お客さんを楽しませないといけないんだもん。
スーパーのバイトでは、ほとんど客との会話はない。
たまに商品の位置を尋ねられるくらいである。
「しかもこれから、片付けもしなきゃいけないんだよね」
売上の計算と確認をし、教室の飾り付けをはがし、机や椅子を元通りの位置に運ぶ。
正直、かなり面倒くさい。
しかし、片付けを本日中にするのは規則だ。しかも私と天野さんは実行委員として、クラスの片付けが終わったら本部に報告しなきゃいけない。
「大変だけど、これで実行委員の仕事も最後ね」
委員長の声が寂しそうで、なんだか嬉しくなる。
私も委員長もいやいやなってしまった実行委員だったけど、終わるのが寂しいって気持ちはきっと一緒だ。
「実行委員会議がなくなるのも、ちょっと寂しいかも」
くすっと笑いながら委員長が言った。
照れているのか、私の目は見てくれない。でもそれがなぜか妙に色っぽくて、鼓動が速くなる。
そっか。実行委員が終わったら、当たり前だけど、週一の会議もなくなるんだよね。
つまらない会議ばかりだったし、時間をとられるのはかなりきつかった。
でも委員長と二人で開始時間まで教室にいたのも、なにかと文句を言いながら二人で会議に参加したのも、全部大事な思い出だ。
「じゃあさ、これからは普通に、放課後も遊んだりすればよくない?」
委員長が断るはずがない。分かっているのに、ちょっとだけ緊張する。
実行委員の会議、文化祭のためのコスメの買い出し、そして二人だけでまわった文化祭。
これからはもう、委員長を誘う時に文化祭という口実は使えなくなるのだ。
「うん。私も、同じこと言いたかった」
「委員長……!」
嬉しくて抱き着きたくなるのを我慢する。
今抱き着いたら私、きっとどきどきしすぎておかしくなっちゃうから。
「天野、委員長! 片付けするから先に着替えてきて!」
クラスメートの声にびっくりしてしまう。
完全に私、委員長しか見てなかった。
「行こうか、天野さん」
「うん」
着替えちゃうのはちょっともったいない気もする。
更衣室に行く前にもう一回だけ、写真撮ろうって言おうかな。
♡
クラス全員が積極的に動いたおかげで、片付けは一時間ちょっとで終わった。
本部への報告も済んだから、今日はもうこれで解散だ。
「打ち上げくる奴ー!?」
まだそんなに元気なのか、と驚くほど大きな声で男子が叫んだ。
そういえば打ち上げのこと、すっかり忘れてたな。
学校についてから考えようと思っていたけれど、バタバタしているうちに忘れてしまった。
みんなの反応を見ると、それなりの人数が参加するみたいだ。
「天野さん、行くの?」
「どうしよっかな。委員長は塾でしょ?」
「うん。でも……」
委員長が一瞬だけ私の目を見て、すぐに逸らした。
もっと見てよ! とは言えなかった。委員長が緊張しているのが分かったから。
「天野さんが行くなら、塾、サボっちゃいたいかも……」
真面目な委員長がこんなことを言うなんて、想像もしてなかった。
どくん、どくんと心臓がうるさい。
委員長はきっと、勇気を出して私に言ってくれたんだよね。
委員長の声、ちょっとだけ震えてた気もするし。
だったら、私も頑張らなきゃ。
今日で文化祭は終わり。
だからこそ、一歩踏み出したい。
「どうせ行くなら、私は二人きりがいいんだけど」
私の声も、笑っちゃうくらい震えていた。
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