第34話 可愛い×可愛い=最強(委員長side)

「わ、可愛い! 私、久しぶりにわたあめ食べたかったんだよね!」


 お目当ての教室に到着すると、天野さんは弾んだ声でそう言った。

 わたあめ屋はそれなりに並んでいるが、やきとり屋と同様、回転率は高いはずだ。


「しかもなんか、めっちゃ可愛いよね」

「うん。カラフルで」


『ミラクルわたあめ』と名づけられたこのクラスの商品は、やたらとカラフルなわたあめである。

 正直、健康に悪そう……というのが私の第一印象だった。


 でも、この可愛いわたあめを持つ天野さんは絶対写真におさめたい。

 だって、その写真、可愛いものしか写ってないんだもん。


「せっかくだから一番大きいサイズにしたら?」

「そんなに食べられるかな」


 わたあめのサイズは大中小と三種類ある。

 他の物もいろいろと食べるからか、小を注文している人が一番多いようだ。


「わたあめって意外と量食べられないし、小さいのでいいかと思ってたんだけど」


 天野さんの気持ちは、すごく分かる。

 正直私は、甘すぎるわたあめがあまり好きじゃない。

 でも……。


 大きいわたあめを持った天野さんの写真が、絶対に欲しい!


 今日の天野さんは天使姿だ。ふわふわとした白いワンピースに、それに合わせたいつもより甘いメイク。

 そんな今の天野さんに、大きいわたあめが似合わないなんてことがあるだろうか。いや、絶対にない。


「なら、大きいの頼んで半分ずつ食べない?」

「えっ?」


 天野さんは目を丸くした。


 小さいサイズのわたあめは400円で、大きいサイズのわたあめは900円。

 大きいものを半分こした方が得になるわけでもないし、食べにくいだけだ。

 それは私だって分かっている。


「私、大きいわたあめを持った天野さんの写真が撮りたいの」


 素直な気持ちを口にするのは恥ずかしい。

 でも、そう伝えた時の天野さんの顔が見たかった。


「……そ、それなら、うん、そうしよ。大きい方が絶対、映えるし」


 ねえ、天野さん。

 天野さんにとっても私が特別だと思うのは、私の自惚れじゃないでしょ?


 勘違いだと思えるほど私は鈍くない。

 だけど、直接それが聞けるほど度胸があるわけじゃないの。





「うわ、これ思ってたより大きいかも」


 わたあめを受け取ると、天野さんがそう言った。

 確かに、近くで見ると思っていたよりも大きく見える。

 まあ、天野さんの顔が小さすぎるだけかもしれないけれど。


「写真撮っていい?」


 スマホを取り出し、カメラを起動する。


「まず、わたあめを顔の真横で持ってほしくて」


 その次は真下かな……なんて私が考えていると、天野さんが呆れたように溜息を吐いた。


「委員長。まずは一緒に撮るもんでしょ? 私だけの写真は、その後いくらでも撮っていいから」


 赤い顔でこういうこと言うの、めちゃくちゃ可愛いよね。


 つい、心の中で誰かに問いかけてしまう。誰も返事をしてくれないことは分かっているのに。


「ほら、こっち向いて」


 天野さんがスマホを構えた。

 私たち二人とわたあめがちゃんと写るように写真を撮るのは意外と難しい。


「撮るよ」


 天野さんが連続して何度も写真を撮る。そのたびに少しずつ表情やポーズを変える天野さんはすごい。


 しかもやっぱり、わたあめと天野さんって最強コンビじゃない。


「ね、委員長。二人でわたあめにかぶりついてる写真撮らない?」

「絶対撮る」


 思わず私が食い気味に返事をすると、天野さんは大笑いした。

 オタクっぽい、と思われちゃったかもしれない。


「じゃあ、撮ろ。せーの」


 天野さんの言葉に合わせ、わたあめにかぶりつく。


 びっくりするくらい、わたあめは甘かった。

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