第33話 独り占め(委員長side)

 安心して、自分のことを話せばいい。


 きっと適当に言ったことだろうけれど、占い師のその言葉が胸に刺さった。


 天野さんにだけは、趣味の話ができた。

 可愛い女の子を見るのが好きなこと、いちごちゃんという配信者が大好きなこと。


 でもそれはどちらも、楽しい話だ。

 私らしくなくて隠していることではあるけれど。


 天野さんになら、楽しくない話もできるのかな。

 天野さんなら、私の悲しい気持ちも受け止めて、話を聞いてくれるのかな。


 正直、せっかく天野さんといるのに、マイナスな気持ちになるような話はしたくない。

 だけど……。


 楽しい話だけじゃなくてもっといろんな話ができたら、きっと私と天野さんの距離は爆発的に縮まるんだろう。


「もう時間ですから、最後に一つだけ」


 胡散臭いどころか学生が思いつきで喋っているだけだと分かっているのに、なぜか真剣に話を聞いてしまう。


「相手のことを考えるのも重要です。

 でも、自分がどうしたいか、相手とどうなりたいのかを考えないと、お互いにとって不幸なことになりますよ」


 言い終えると、占い師はにっこりと笑った。

 占いというより助言みたいだ。


「では、次の方が待っていますから」


 出て行け、ということだろう。私は天野さんと目を合わせ、占いブースを出た。





「どんな感じかって思ってたけど、結構よかったよね、占い!」


 教室を出るなり、天野さんが笑顔でそう言った。

 ねえ、と顔を覗き込まれて、とっさに顔を逸らしてしまう。


 だって、近すぎでしょ……!


「……うん。私たち、相性いいみたいだし」

「まあそれは、占う前から分かってたけど」


 天野さんが悪戯っぽく笑った。

 天使のコスプレをしているのに、小悪魔みたいに魅力的な笑顔だ。


「次、どこ行く?」

「天野さん、わたあめ食べたいって言ってなかった?」

「覚えてたんだ」


 天野さんが嬉しそうに笑う。


「覚えてるわ」


 私にとって天野さんとの会話は、どれも特別だから。

 自分が誰かと一緒に文化祭を回るなんて思っていなかったし、ましてやそれが天野さんだなんて、少し前までは想像もしていなかった。


 ちょっと前まではたぶん、お互いに苦手なクラスメート、というだけの関係だったから。


 もしかしたら未来には、私と天野さんは今の私には想像できないような関係になっているのかもしれない。


 そこまで考えて、先程の占い師の言葉を思い出した。


 相手とどうなりたいのか。


 私は、天野さんとどんな関係になりたいんだろう?


「委員長? ぼーっとして、どうかした?」

「ううん、なんでもない。わたあめ屋行こうか」

「うん。あ、また手繋ぐ?」


 なんでもないように差し出された天野さんの手は、わずかに震えている。


 可愛い。


 天野さん、緊張してるの?

 私と手を繋ぐだけなのに?


 友達の少ない私と違って、天野さんなら女友達と手を繋ぐ機会なんていくらでもあるだろう。

 見た感じ、友達との距離は近いように見えるし。


 私だから?

 私と手を繋ぐから、緊張してるの?


 聞いてしまいたい。でも、なぜか聞けない。

 自分の鼓動が速くなるのを実感しながら、私は天野さんの手をぎゅっと握った。


「なんか、本当にデートみたい」


 ぼそっとそう呟いた天野さんの顔は赤くて。

 私を見つめる瞳は、何かを言いたそうに潤んでいて。


 この顔、他の人に見せてほしくないな。

 天野さんの可愛い表情、全部私が独り占めできちゃえばいいのに。

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