第32話 占いの館(ギャルside)
焼き鳥を食べ終わった私たちは、委員長が行きたいと言っていた占いの館にやってきた。
全ての窓が暗幕で覆われ、教室の扉の前に画用紙で作られた紫色の看板が置いてある。
水晶占いとタロット占いがあり、どちらも1回400円だ。
加えてなぜかおみくじも販売しており、それは1個100円だった。
準備に時間かかってなさそう……。
まあ、3-Aだしね。
1年時のクラスはランダムだが、2年以上になると、成績と文理別のクラスになる。
3-Aは、理系の一番成績がいいクラスだ。
来年以降は、委員長と同じクラスにはなれないんだろうな。
文理はともかく、成績別というのが難しい。
だからこそ今年のうちに、委員長との距離をとにかく詰めておかないと。
「中入る?」
「うん、とりあえず入ろうか」
委員長がゆっくりと扉を開ける。
室内の電気は消されていて、部屋のあちこちに薄いオレンジ色の光を放つライトが設置されている。
部屋の端に椅子が置いてあり、どうやらそこに座って順番待ちをしているようだ。
「あれよね」
委員長が教室の一番奥にある水晶占いのブースを示す。
「うん、相性占いしてもらおうよ」
相性占いはいいコンテンツだと思う。
相性が良ければもちろん嬉しいし、もし悪くても、そんなことないよねと言い合うことができる。
つまりどう転んでも、私と委員長の仲が深まるわけだ。
水晶占い待ちの席に座り、順番がくるのを待つ。
占いスペースは一応パーテーションのようなもので区切られていて、中は見えない。
「なんかちょっと、緊張するね」
静かな空間に合わせ、小声で委員長に話しかける。
ええ、と委員長も頷いた。
普段、占いなんて全く縁がない。
せいぜい、たまにテレビとかネットの占いを流し見することがあるくらいだ。
「委員長は、占いとか好きなの?」
「別にそういうわけじゃないんだけど、天野さんとなら楽しそうだなって」
そういうの狡い……と思って委員長を見ると、委員長の顔がだんだん赤くなっていった気がした。
もしかして、自分で言っておいて恥ずかしくなったの?
それすら可愛くて狡いんだけど。
教室の中が暗くてよかった。もし明るかったら、私のにやけ面が完全に委員長に見られてしまっただろうから。
♡
「次の方、どうぞ」
前の人が出てきたのとほぼ同じタイミングで、水晶占いのブース内から声が聞こえた。
ブース内に入ると、紫色のマントを羽織った女子生徒と目が合う。
これ、制服の上から紫色のマントを羽織ってるだけだよね?
それっぽい雰囲気を出そうとしているのは分かるが、かなり雑だ。
水晶を置いている机も、日頃使っている机に黒い布をかぶせただけの物である。
「今日は何を占いますか?」
ちら、と委員長を見る。委員長はあっさり、相性占いで、と口にした。
「分かりました」
占い師は水晶に両手の手のひらをかざし、しばらくの間黙り込んでいた。
じっと水晶を見つめているが、本当に何かが見えたわけではないだろう。
「お二人の相性は……」
どうせ、この先輩が適当に言っているだけだ。
分かっていても、なぜか緊張してしまう。
「抜群です。一見正反対に思われる二人ですが、互いに自分にはないところに惹かれ合い、尊敬し合うことができるでしょう」
うんうん、と占い師は何度も頷いた。
たいしたことは言っていない。というか、適当なことを言っているだけだろう。
しかし、相性抜群だと断定されたのが嬉しい。
「ですがまだお互いに、話していないことがたくさんありますね?」
占い師の言葉に、私はぎくっとした。
それって、実は私がいちごだってこと?
「無理に話す必要はありません。しかし、自分の話をすることで、より距離を近づけることができるでしょう」
占い師は微笑んで、私たちを交互に見つめた。
「貴女たちは相性が最高にいい。ですから、安心して自分のことを話せばいいんです。きっと相手は、ちゃんと受け入れてくれますから」
私が、実はいちごだということ。
みんなには黙っているけど、金銭的な余裕がないこと。
天野翼らしくない私を知ってもきっと、委員長はちゃんと受け入れてくれるだろう。
今すぐにそれを伝えることはできないけど、でも……。
委員長には私のこと、もっといっぱい、知ってほしいな。
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