第31話 文化祭デート(ギャルside)

 午前中のシフトが終わって、私たちはようやく休憩に入れた。

 今日はもう、委員長と文化祭を楽しむだけだ。


「このまま行くの?」

「だって、せっかくだし!」


 今日はもう制服に着替えてしまってもいいんだけど、なんだかもったいない。

 こんな格好で校内を歩けるのは文化祭の時くらいのものだ。


 正直今の委員長、めちゃくちゃ格好いいし。


「お腹空いたし、食べ物系のところから行かない?」

「いいね。どこ行く?」


 二人でパンフレットを覗き込みながら、食べ物系の店を探していく。

 甘いものもいいけれど、今はとりあえずご飯系が食べたい。


「焼き鳥とかどう?」


 食べやすいし、美味しくないということもないはずだ。

 それに焼き鳥なら、買えばどこででも食べられる。

 たぶん店舗型の教室は、この時間に行ってもどこも混雑しているだろうから。


「いいと思う。行こうか」

「うん」


 二人で教室を出る。

 派手なコスプレ衣装は目立つけれど、浮くってほどじゃない。


 廊下はかなり人が多かった。うちの学校の生徒はもちろん、外部の人もかなりいる。


「なんか、これだけいるとはぐれちゃいそうだよね」


 ちら、と委員長の顔を覗き見る。

 今の言葉は、さすがにわざとらしかっただろうか。


「……手、繋ぐ?」


 委員長は視線を前に向けたまま、左手を私に差し出した。

 委員長の顔は見えないけれど、想像することくらいはできる。


「うん」


 何気ない風を装って、委員長の手をぎゅっと握る。白くて綺麗な手だけれど、触ってみるとところどころぼこぼこしている。

 たぶん、ペンだこだろう。


 委員長、すごいよね。私なんかと違って、ちゃんと勉強してるんだもん。


 私は昔から勉強が苦手だし、嫌いだ。

 学費のことを考えて私立にはいけなかったから、それなりに高校受験の時は勉強したけれど。


 でもそのおかげで私、今委員長と一緒の学校に通えてるんだよね。


 私と委員長の学力は雲泥の差だ。しかし、ぎりぎりでも私がこの高校に合格したおかげで、こうして委員長と一緒にいられる。


 手を繋いでいるだけで、なんだか心がぽかぽかする。

 嬉しいような、どきどきするような、安心するような。


 女の子同士で手を繋ぐなんて、珍しいことじゃない。だから私たちがこうして手を繋いでいても、周りは変な視線を向けてこない。

 だけど、この胸の高鳴りは、絶対特別だ。


「天野さんって、焼き鳥は塩派? タレ派?」

「種類によるかな。ぼんじりは塩だけど、ももはタレ」

「分かる、それ。いろんな味食べたいしね」


 何気ない話をしているうちに、焼き鳥屋に到着した。

 予想通りかなりの列だが、進みは早い。この分なら、10分ほど並べば食べられるだろう。


「1本120円か。委員長、何本食べる?」

「そうね。3本くらい?」

「じゃあ私もそうする!」


 焼き鳥3本で360円。私がバイトしているスーパーならもっと安いのに、なんて心の端っこでは思っちゃうけど、しょうがない。


「並んでるし、まとめて注文する? いったん、私が払っとくから」


 委員長がそう言って財布を取り出した。

 茶色い財布は、私でも知っているブランド品だ。しかも若い子向けというより、わりと年配の人が使っているイメージの。


 親からもらったりしたのかな? 委員長、育ちよさそうだし。


「ありがとう。後でちゃんと払うから」

「うん。まあ、今日いろいろ行くし、最後にまとめて清算すればいいよ」


 私たちの番がくると、委員長がまとめて注文してくれた。

 おそらくレンジで温めているだけなのだろう。すぐに商品を受け取ることができた。


「いただきます」


 焼き鳥を食べるだけなのに、委員長は律儀にそう言った。なんだか、委員長らしくてきゅんとする。

 私も真似していただきます、と言って焼き鳥にかぶりついた。


 ただの冷凍の焼き鳥だ。

 なのに委員長といるだけで、とてつもなく美味しく感じた。

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