第28話 コスプレ喫茶、開店(ギャルside)

 いよいよ、文化祭が始まる。

 私たちのクラスの出し物、コスプレ喫茶も開店時間が近づいてきた。


「委員長、いける?」

「……緊張してきたわ」


 私の隣に、委員長は無表情で立っている。

 着替えが終わった直後はお互いにはしゃいで写真を撮り合ったりしたものの、いざ開店時間が近づくと緊張してしまうようだ。


 まあ、委員長、こういうキャラじゃないし、接客経験もないもんね。


「大丈夫だって。今日の委員長、最高だから」

「……だと、いいんだけど」


 軽く深呼吸をし、委員長が胸に手を当てた。


「じゃあ、そろそろ店開けていい?」


 大声でクラスメートに呼びかける。委員長が緊張している分、私が頑張らないと。

 みんなが頷いたのを確認し、私は教室の扉を開けた。


「お待たせいたしました。ただいまよりオープンです!」


 教室の前で並んでくれていた人たちに声をかける。

 見知った学校の子もいれば、外からきてくれたお客さんもいた。

 ありがたいことに、お客さんには困らなさそうだ。





「いらっしゃいませ!」


 ちょうど入ってきたのは、二人組の男性客だった。制服ではなく私服姿だが、あまり年齢差は感じない。

 他校の高校生か、大学生といったところだろう。


「お席へ案内しますね」

「お姉さんは天使のコスプレ?」

「そうなんですよ」


 にこにこと笑いながら、二人を客席へ案内する。

 といっても、いつもの机を四つくっつけて並べて、白いテーブルクロスをかけただけの席だけれど。


 接客は慣れてるけど、どんな感じにするか悩むんだよね。

 いちごの時ほど振りきるのは、クラスメートがいる手前恥ずかしすぎるし。

 それに、委員長にバレちゃう危険性もある。


「メニューはこちらです」

「へえ、チェキとかもあるんだ」

「はい。店内にいる好きな子を選んで、一緒にチェキが撮れちゃいます!」


 チェキの値段は、一枚600円。

 フィルム代と比べるとかなり高いから、チェキが出ればその分利益が増える。


「お姉さんと撮っちゃおうかなあ、お姉さん美人だし」


 にやにやと笑いながら、二人が私を見てくる。

 たぶん、撮ってください、と私に可愛く媚びてほしいんだろう。


 だる……と内心思いながらも、私は笑顔を絶やさない。

 これくらいならまあ、そこまで迷惑な客でもないから。


「お兄さんたちが撮ってくれたら、とっても嬉しいです」

「そうなの?」

「はい。それに、天使とチェキなんて撮ったら、きっと運気上昇間違いなしですよ!」


 ね? と笑いかけると、お客さんたちも笑ってくれた。


「じゃあ、お姉さんとのチェキと、紅茶で」

「俺も」

「ありがとうございます! 紅茶はすぐにお持ちしますね。チェキは後でお呼びするので、あっちの撮影スペースで撮りましょう!」


 教室内の隅に、撮影用に飾りつけた場所がある。

 チェキの撮影はそこで行うルールだ。


「うん、待ってるね」

「はい!」


 注文メモを持って、スタッフのところへ向かう。紙コップに入れた飲み物を運べば、いったん接客は終了だ。


 ちら、と横目で委員長を見る。

 男装、というのは女性客にウケがいいのか、委員長は女性客の卓にばかりついているみたいだ。


 なんかちょっと、もやっとするかも……。


「天使ちゃーん、こっちきてー!」


 野太いお客さんの声が聞こえきて、はい! と私は慌てて返事をした。

 

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