第21話 可愛すぎる友達(委員長side)

 まずい。

 非常に、まずい。


 昼ご飯を食べる天野さんが、可愛すぎる。


 私たちは待ち合わせ場所の駅前から移動し、いろんな店に入っているショッピングモールにやってきた。


 そしてレストランフロアへ行き、比較的空いていたここ……定食屋へやってきたのである。


 天野さんって、絶対和食より洋食派だと思ってた。


 勝手な偏見かもしれないけれど、そういうイメージがあったのだ。

 だから、天野さんがここにしようと言い出した時は驚いた。


 おまけに天野さんが頼んだのは、鯖の味噌煮定食。


 絶対、天ぷら定食か刺身定食だと思ったのに……!


 さらに驚いたことに、天野さんは箸の使い方がめちゃくちゃ上手い。

 ギャルっぽい見た目とのギャップに、思わずどきどきしてしまう。


 何より、今日の天野さんは私服姿だ。

 いつもの見慣れている制服とは違う。


 ちょっと露出が多すぎるんじゃないの?

 肩も出てるし、お腹も見えそうだし、スカートも短いし……。


 心配になりながらも、ちらちらと視線を送ってしまう。


 だって、めちゃくちゃ顔が好みの女の子が、目の前で露出してるのよ?

 そりゃ、がっつり見るしかないでしょ。


 そうよね? と自分に問いかけ、当たり前だと自分で応じる。


 それに天野さん、メイクもいつもよりキラキラしてる気がする。


 もしかして天野さんも、今日を楽しみにしてくれてたのかな。

 私がさんざん着ていく服に悩んだみたいに、天野さんも私のためにいろいろ考えてくれたんだろうか。


「委員長」

「どうかした?」


 声をかけられて、慌てて視線を白米に落とす。

 じろじろと肌を見ていたことがバレたら、気持ち悪がられてしまうかもしれない。


 それに、目が合ったら私、どんな表情になるか分からないから。


 天野さんと一緒にいることにも、話をすることにも慣れた。

 だけどまだ、天野さんの目を真っ直ぐに見ることはできない。


「食べる前に、写真撮るの忘れちゃったね」

「写真……?」


 天野さんが頼んだのは鯖の味噌煮定食で、私が頼んだのは天ぷら定食。

 美味しいけれど、写真映えするようなものではない。


「だって、写真は思い出になるでしょ」


 つまり天野さんは、私との昼食を思い出にしてとっておきたかったってこと?

 写真映えもしない、可愛くも珍しくもない、普通の定食なのに。


 私との……初デート、だから?


「今からでも遅くないんじゃないの?」


 スマホを鞄から取り出し、食べかけの昼食を撮影する。

 天野さんは一瞬ぽかんとした表情になったけれど、すぐに大きく口を開けて笑い出した。


「委員長、最高だわ」


 最高なのは貴女の顔でしょ?

 脳内でとっさにそう返事をしてしまう。


 最高は、いちごちゃんなのに。


 天野さんは確かに可愛い。だけど、私の一番はいちごちゃんだ。

 それなのに、天野さんが可愛すぎる。


「ねえ、委員長。食べたらコスメ買って、どっかで試してみない? せっかくコンタクトできてくれたんだし」

「ええ、私もできれば、そうしてほしいと思っていて」


 私はメイク初心者だ。

 道具だけ買い揃えても、最初から一人で上手にメイクができるとは思えない。


「オッケー。じゃあ決まり! 私が、めちゃくちゃ格好良くしてあげる」


 ちょっと待って。

 それはつまり、天野さんがメイクしてくれるってこと?

 ということは天野さんの顔が、めちゃくちゃ近くにくるってこと?


「安心して、私に任せていいからね」

「よ、よろしく頼むわ……」


 あまりにもどきどきしてしまった私は、震える声でそう言うのが精一杯だった。

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