第20話 委員長の私服(ギャルside)

 待ち合わせ場所に着いたのは、約束の30分前。

 さすがの委員長も、まだきていない。


 結局私は、ロリータっぽくない私服を選んだ。


 オフショルダーの丈の短い白いブラウスに、黒色のミニスカート。

 そして身長を盛るためにヒールの高いショートブーツ。


 委員長が可愛いファッションが好きなら、今日の私の格好は好みじゃないだろう。

 系統で言えばたぶん、オルチャン風ファッション、という部類に属するはず。


「まあ、私っぽいよね、たぶん」


 クラスメートや私のことをよく知らない人が想像する天野翼の私服そのものだ。

 まあ私だって、こういう服も嫌いじゃない。


 委員長好みの服を選ばなかったのは、違和感を持たせないようにするためだ。

 でも、それだけじゃない。


 委員長に、可愛いと思ってほしかったから。

 いちごみたいな可愛い服を着た私じゃなくて、たぶん、委員長の好みの真逆の服を着た私のことを。


「……っていうか委員長って、私服どんなだろ?」


 たぶんだけれど、委員長はあまり自分が着飾ることには関心がないはずだ。

 だったら、私服はどんな風なのだろう。


「親が買ってきたやつ? もしかして楽だからジャージ?」


 正直、どんな服でも、まあ委員長だし、で納得してしまいそうなところはある。


「委員長、早くこないかなあ」


 待つのが嫌なわけじゃない。

 ただ、委員長に早く会いたいだけだ。


 昨日は服装で悩んだせいで眠るのが遅くなったのに、結局、予定より二時間も早く起きた。

 今日が楽しみで、あまり眠れなかったのだ。


 メイクだっていつもより丁寧にした。

 委員長には分からないかもしれないけれど。


「天野さん」


 背後から声をかけられ、私は慌てて振り向いた。


「……え?」

「ごめん、待った?」


 委員長が首を傾けると、後ろで一つに結んだ長い髪が揺れる。

 委員長が髪を結んでいるところを初めて見た。


 いや、それだけじゃない。


「委員長、眼鏡は?」

「コンタクト入れてきたの」

「え?」

「化粧品を試したりするなら、眼鏡は邪魔かなって」


 確かに、メイクをする時に眼鏡は邪魔だ。

 買い物だけなら困らないけれど、試してみる時に眼鏡はない方がいい。


「もしかして、服も?」

「ああ、男装メイクって言うから、それっぽいのがいいかなって」


 白いワイシャツに、黒いカーディガン。

 そして、細身の黒いパンツ。


 シンプルな服装だ。

 でもそれが、今日の委員長にはよく似合っている。


 眼鏡を外したおかげで目もいつもより大きく見える。

 切れ長の瞳には知性が宿っていて、なんだか引き込まれそうになる。


 委員長って、こんなに綺麗な顔してたっけ?

 もしかして、私の見方が変わっただけ?


「どうかな?」

「めっちゃ似合ってる!」


 思わず大声になってしまった。

 慌てた私を見て、委員長がくすっと笑う。


 その表情に、どきっ、と心臓がうるさくなった。

 ああ、だめだ。

 一度意識しちゃったらもう、取り返しがつかない。


「天野さんも私服、すごく似合ってるよ」

「……本当に?」

「うん、天野さんって感じするし」


 委員長の私を見る眼差しが柔らかくて、言葉に嘘がないんだって伝わってくる。


「最初に昼ご飯にする? 天野さん、お腹空いた?」

「あ、うん、空いたかも」


 なんだか食欲がなくて、今朝は何も食べられなかった。

 その分、今は空腹だ。


「じゃあ、まず何か食べようか」

「うん、そうする……!」


 ああ、だめだ。

 目が合っただけでどきどきするし、心臓がうるさくなる。


 私、委員長のこと好きなんだ。

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