第19話 デートの準備(ギャルside)

「あー! もう! 全然決まんない!!」


 床に広げまくった服を見て、私は頭を抱えた。

 時刻は午前1時。

 さすがにもう、眠らないとまずいのに。


 明日は日曜日。

 委員長との初デートだ。

 夜はスーパーのアルバイトがあるから、集合は午前10時。

 買い物をするだけじゃなく、一緒に昼食もとることになっている。


「どれがいいの? 可愛いやつ? いやでも……!」


 私は、あまり私服を持っていない。

 普段は制服でいいし、お金がたまるとつい配信用のロリータ服を買っちゃうからだ。


 でも、悩まないほど服がないわけでもない。


 ぎりぎり普通の私服としても扱えるロリータ寄りの物、動きやすそうなシンプルな物、上品なお姉さん系の物……。


「委員長が好きそうなのはこれだよね」


 ロリータ寄りのブランドが出しているワンピースを手にとる。

 胸元に大きなリボンがついていて、裾と袖にはフリルが縫い付けられている。

 丸襟も可愛いし、腰にまくリボンがあるおかげで太って見えることもない。


「しかも白だし」


 でも、いちごの私服じゃなくて、天野翼としての私の私服だ。

 あまりにもロリータっぽいのは、委員長に不審がられるのではないだろうか。


 っていうか私、なんでこんなに委員長のこと考えてるの?


 デート、なんて言葉を冗談で使ったけれど、今日は文化祭で必要なコスメを一緒に買いに行くだけだ。


「でも誘ったの、私なんだよね……」


 今はネットで調べれば情報なんていくらでも手に入る。

 一緒に選んであげなくたって、おすすめの商品を伝えることもできた。


 だけど、一緒に買いに行こうと誘ったのは私だ。


「委員長がストロベリーナイトさんだったから?」


 あえてアーカイブをすぐに公開せず昼休み直前に公開したことで、確信できた。


 私の最古参オタク・ストロベリーナイトさんは、委員長だったのである。


 正直、めちゃくちゃびっくりした。

 そもそも同じ高校生だなんて思っていなかったし。


「でも、だって、思わないじゃん……」


 いちごの一挙一動に可愛い可愛いとはしゃいでくれて、専用のアカウントも作ってくれて、スパチャまでしてくれて。

 会ったこともないのに、こんなに愛してくれて。


 そんな相手が、まさか身近にいるなんて。


 ロリータ風のワンピースを手にとって、鏡の前で合わせてみる。

 天野翼のままでこれを着るのは少し違和感があるけれど、きっと、委員長なら褒めてくれる気がする。


「でも……明日の私は、天野翼として行くし」


 委員長はいちごのことが大好きだ。

 じゃあ、天野翼のことは?


 それなりに仲良くなったと思う。

 休みの日に二人で出かけるんだから、友達と言えるはず。


 少し前まで、委員長とそんな関係になるとは思えなかった。


「委員長、天野翼のことも、好きになってくれないかな」


 ふとこぼれた呟きに、自分でも驚いてしまう。


 私、なんでこんなこと思うの?


 いちごとしてじゃなく、ただの天野翼として委員長と関係を築きたいと思っていた。

 でも今の私はきっと、それだけじゃない。


「私、ただの私としても、委員長に好かれたいんだ……」


 だから私、こんなに必死になって服を選んでるんだ。


 気づいた瞬間、全身が熱くなるのが分かった。


「こんなの、こんなの……」


 頭の中に、委員長の顔がいっぱい浮かぶ。


「委員長のこと、好きみたいじゃん……」

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