第18話 デートのお誘い(委員長side)

「よし、午後も頑張ろ!!」


 配信のアーカイブは無事に見終えたし、いちごちゃんに感想をDMした。


 あれだけ疲れていて力が出なかったというのに、今は全身が軽い。

 やっぱり、いちごちゃんはすごい。





 教室の扉を開けると、なぜか天野さんとすぐ目が合った。

 まるで、ずっと私を待っていたみたいだ。


 そんなはずはないと思いつつも、少し胸が騒ぐ。


「おかえり、委員長」

「ただいま」

「いいことでもあった? さっきと別人みたい」


 天野さんの手には、パックのいちごオレがある。

 にやけそうになるのを我慢して頷いた。


「ちょっとね」

「委員長もこれ飲む? 元気なさそうだったから、買っておいたんだけど」


 天野さんが未開封のいちごオレを差し出してきた。

 ありがとう、とお礼を言ってから受けとる。


「委員長って、いちご好きでしょ? LINEのアイコンとかもそうだし」


 私が好きなのは苺ではなく、いちごちゃんだ。

 でもいちごちゃんのおかげで、苺も私にとって特別な存在になった。


「うん、大好きなの」


 紙パックにストローをさす。一口飲んで顔をあげると、なぜか顔を真っ赤にした天野さんと目が合った。


「天野さん? どうかした?」

「あ、いや、なんでもないから!」

「ならいいけど……」

「つ、次英語だよね!?」


 天野さんは分かりやすく動揺し、机の中から単語帳を取り出した。

 単語帳を見るふりをして、赤くなった顔を隠す天野さんは可愛い。

 でも。


「天野さん、次は数学でしょ」


 英語の授業は午前中にもう終わっている。

 けれどそう指摘しても、天野さんが顔を見せてくれることはなかった。





「今日の会議、マジでだるかったよね」


 靴箱を出たところで、天野さんが溜息を吐いた。


「うん、私もそう思う」


 毎週会議をしていると、重要じゃない会議も増えてくる。

 今日は話を聞くのがほとんどだったし、正直、途中でうとうとしてしまった。


「そういえばさ、委員長」

「なに?」

「コスプレ衣装はもうお互いネットで買ったじゃん?」

「うん、もう届いてるよ」

「委員長ってメイク道具とかある?」

「あ……」


 いちごちゃんが紹介してくれた商品はメモしてあるけれど、買ってはいない。

 私はいつもメイクなんかしない上に、そのお金をスパチャに使った方がいいと思っているからだ。


 でも、コスプレをするならすっぴんというわけにはいかない。


「まだ買ってないの」


 私がするのは男装だけれど、いちごちゃんがいつも使っている商品と同じで大丈夫だろうか。

 それとも、違う物にした方がいいのだろうか。


「じゃあ、一緒に買いに行かない?」

「え?」

「私、コスメにはそこそこ詳しいし、いろいろアドバイスもできると思うんだけど!」


 どう? と胸を張った天野さんのドヤ顔が、上手く言えないけど、なんかこう……愛しい。


「しようよ、デート」


 わざわざデートという言葉を使う天野さんはあざとい。

 でも私はもう、天野さんのあざとさにハマっちゃうくらいには、天野さんに好意を持っているのだと思う。


「する……」

「よし! じゃあ決まりね。後で空いてる日LINEするから、委員長も教えて」

「うん、ありがとう」


 高校に入学してから、誰かと一緒に遊びに行くのは初めてだ。


 二人で遊びに行くってことはもう、ただのクラスメートじゃなくて、友達って言っていいんだよね?


 そっか。私と天野さん、友達になったんだ……。


「委員長、にやにやしてる」

「え!?」

「そんなにデート、楽しみなの?」


 そう言ってからかってくる天野さんだって、十分にやにやしている。


「楽しみに決まってるでしょ。天野さんとの初デートなんだから」


 私もからかってみようとしたけど、失敗した。


 あまりにも赤くなってしまった天野さんを見て、私も真っ赤になってしまったのだ。

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