第17話 初めての失敗(委員長side)

「かんっっっぜんにやらかした……」


 頭を抱え、ベッドの上を転がりまわる。

 こんなことをしても何も変わらないのは分かっている。

 分かっているけれど、じっとしてはいられないのだ。


 私は今日、初めていちごちゃんの配信を見逃した。

 彼女が配信を初めてからずっと、ちゃんと見ていたのに。

 おまけにアーカイブもない。


「いちごちゃんから返信ないし、てか誰か画録してないの!? いやいちごちゃんはやめてねって言ってけど、でも……」


 動画配信の画面録画やスクリーンショットは極力やめてほしい、と以前いちごちゃんは言っていた。

 個人で楽しむだけならいいけれど、インターネットにあげてほしくない、と。


 その気持ちは分かる。

 いちごちゃんはどんな瞬間を切り取っても最高の美少女だけれど、きっといちごちゃん的に嫌なスクショもあるんだろう。

 長い配信の一部分だけを切り取られて炎上した配信者だっている。


「だけど……!」


 ゲリラ配信楽しかった、という投稿が、フォローもしていないのに流れてくる。


「なんでこいつらが見れて私が見れてないの!?」


 絶対、私の方がいちごちゃんを好きなのに。

 絶対、私の方がいっぱいスパチャ投げたのに。

 絶対、私の方が前からいちごちゃんを推してるのに。


「もうやだ……」


 お願い、いちごちゃん。

 どうか、どうかせめてアーカイブを公開して!





「寝れなかった……」


 結局、あれからいちごちゃんは全くSNSを動かしていない。

 誰かが勝手に撮っておいた画面録画の動画も見つかっていない。


 おかげで私は一晩中眠れず、最悪の目覚めだ。


「今日、実行委員会議の日だっけ」


 天野さんとの距離が縮まったおかげで、実行委員会議は面倒なだけではなくなった。

 でも、寝不足の身体にはきつい。


「さっさと帰って、寝たいのに」


 今日、塾は休みだ。

 本当なら午後10時からの配信に備え、朝からわくわくしている予定だった。


「今日の配信はもちろん楽しみだけど、それとこれとは話が違うもん……」


 とはいえ、これ以上ここで嘆いても仕方がない。


「今日の配信でスパチャ付きでアーカイブくださいって言ったら、いちごちゃんあげてくれないかな」


 財布にいくら残ってたっけ、コンビニでプリペイドカード買った方がいいかな……なんて考えながら、私は制服に着替えた。





「おはよう、委員長! あれ、大丈夫? 寝不足?」


 心配そうな顔をして、天野さんが私の顔を覗き込んできた。

 疲れきった身体に、天野さんの優しさが沁みる。


「今日はあまり眠れなくて」

「何かあったの?」


 推しの配信を見れなかったの、とは言えない。なんとなく。


 別に天野さんは、オタクだからって馬鹿にするような人じゃないだろうけど。


「ええ。考えても仕方ないんだけどね」

「そうなの?」

「うん」


 溜息を吐きそうになるのをこらえて、単語帳を広げる。


 私はこんなに頑張ってるのに、神様は意地悪だ。





「え……!?」


 昼休みにふとスマホを確認すると、数秒前にいちごちゃんが昨日のアーカイブを公開していた。


 慌ててイヤホンを鞄から取り出す。


「委員長? どうしたの?」

「私、ちょっと用事が……!」


 最近は昼休みも話すことが増えてきた。

 今日も、何もなければ隣でご飯を食べていたと思う。


 でもごめん、天野さん。

 私、今すぐ昨日のアーカイブを見なきゃいけないの。

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