第14話 初めての気持ち(委員長side)

「今日の授業、全然集中できなかったな……」


 塾を出ていつもよりゆっくり歩く。夜の冷たい空気が、私の頭もちゃんと冷静にしてくれたらいいのに。


 天野さん、可愛かったな。


 思い出すのは天野さんのことばかり。

 いつもなら、いちごちゃんのことを考えて過ごしているのに。


 天野さんの顔は可愛いし好みだ。これは、揺るぎない事実。

 そして天野さんが私が思っていたよりもずっといい子だったっていうのも、れっきとした事実。


「今のこれって、どういう気持ちなの」


 SNSで可愛い子を見つけた時のドキドキとも、新しい友達ができた時の嬉しさとも違う。


 こんな気持ち、初めてだ。


「……あ、いちごちゃんだ」


 スマホの通知音が鳴って、慌てて確認する。たった今、いちごちゃんがインスタを更新したらしい。


 インスタって、絶対写真付きだから最高なんだよね。


「うっ……!」


 投稿を見た瞬間、思わず一瞬だけ目を閉じてしまう。

 今回投稿された画像は、私が一番好きと言っても過言ではないワンピースを着た写真だ。


 真っ白で、レースがふんだんに使われたワンピース。

 パニエのおかげでスカート部分は大きく広がっているが、コルセットのおかげで腰が細いのがちゃんと分かる。


 コルセットは真っ赤で、真っ白なワンピースとのコントラストが最高だ。


「でも、なんで? 今日、配信じゃないよね?これ過去画?」


 疑問に思いながら投稿文を読む。


『今日は時間がなくて配信はできないのですが、嬉しいことがあったので可愛くなってみました!』


「か、可愛い、こっちまで嬉しくなる」


 急いで画像を保存し、拡大して細部を眺める。

 うん、いい写真だ。

 この格好で配信もしてくれたらよかったのに。

 いや、もし私が見れない時間にこんな最強な可愛さで配信をやられていたら病んでただろうから、これはこれでよかったのかも。


 いいことって、いちごちゃん、何かあったのかな。


「普段のいちごちゃんも、見てみたいな」


 そう思いながら、今日も最高に可愛いよ、と書き込む。

 そうすると、すぐにメッセージにいいねをくれるいちごちゃんが愛おしい。


「これ、待ち受けにしちゃお」





「あ、おはよう委員長。今日は何やってるの?」


 天野さんが私の手元を覗き込んでくる。

 最近、彼女は朝学校へくる時間が前より少しだけ早くなった。


「昨日、塾でやったところの復習」

「めっちゃ偉いじゃん! しかもこれ難しそう」


 だって貴女ことばかり考えて、全然、集中できなかったから。


「私ね、コスプレ衣装候補、ちょっと考えてみたんだよ」

「え!?」


 思わず大声で反応してしまった。

 そんな私を見て、天野さんはくすりと笑う。


「見てくれない?」

「うん」


 もう、塾の復習どころじゃない。


 天野さんはスマホを取り出して、いくつか商品ページのスクショを見せてくれた。


 白いワンピースに羽根のついた天使のコスプレや、私が言ったアリスの白いエプロン付きの青いワンピース。

 それから、うさぎの尻尾がついたワンピースとウサ耳のカチューシャのセット。


 正直、全部見たい。


「どれがいいと思う? できれば、委員長のとお揃いみたいにできたらなって思ったんだけど」


 しかも、こんな可愛いことまで言うの?


「ちょっと待って、それっぽいのがあるか私も調べてみる」


 スマホを取り出し、急いで検索する。


 男装として対になりそうって点で考えると、悪魔とか?


「え、あ……」


 妙な声がして横を向くと、天野さんが真っ赤になって口をぱくぱくしていた。


「どうしたの?」

「ご、ごめん、ちょっとトイレ!」


 そう言って、天野さんは教室を出ていってしまった。

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