第13話 オタクモード発動(委員長side)

「やっちゃった……」


 トイレの個室に入り、頭を抱える。

 先程の自分を思い出すと、恥ずかしくて仕方がない。


「はあ……」


 天野さんに可愛い服が似合うと思ったのは事実だ。

 でも、それだけじゃない。


 だって天野さんも、なんか、納得してなさそうだったし。


 男装やセクシー系を提案された時、天野さんはあまり嬉しそうな顔をしていなかった気がする。

 私の、勘違いかもしれないけれど。


「あと単純に、天野さんの甘ロリ系が見たい」


 ロリータにはいくつか種類があって、その中に甘ロリというものがある。

 ピンクや水色などの明るい色が多く、可愛らしい柄がプリントされているものも多い。


 天野さんは背も高いし、美人系の顔つきだ。でも、いや、だからこそ、甘い服装が似合うと思う。


「絶対、変だって思われたよね。せっかく、最近は普通に話せてるのに」


 友達、と呼ぶにはまだ少し遠い。

 だけど確実に、私たちの距離は縮まったはず。


「気持ち悪がられたかも」


 再び頭を抱えると、空腹を知らせるためにお腹が鳴った。

 昼ご飯は、もちろん教室においてきた。


「いつまでもここにいるわけにもいかないし」


 覚悟を決めて、私はトイレを後にした。





 教室へ戻ると、クラスメートみんなの視線が私に集まった気がした。

 気まずくて、俯きながら自分の席へ戻る。


「委員長!」


 すぐ、天野さんが声をかけてくれた。彼女の友人である近藤こんどう愛梨沙さんの姿はもうない。


「さっきのことなんだけど」

「……ごめん、急に」

「いや全然! てかむしろ逆! あのさ、ありがとう、委員長!」


 天野さんの強い視線を感じる。

 今顔を上げたら、きっと、確実に目が合ってしまう。


「私、嬉しかったよ。委員長があんな風に言ってくれて」

「天野さん……」

「私らしくないかもしれないけど、可愛い系のコスプレ、挑戦してみようかな」


 思わず顔を上げてしまった。

 天野さんと目が合って、慌てて視線を逸らす。


 なに、今の……!


 恥ずかしそうな控えめな笑顔だった。

 天野さんのこんな顔、初めて見た。


 少し下がった眉毛も、緩んだ口元も、ちょっとだけ赤くなった頬も、全てが可愛い。


 どうしよう。

 SNSで見る子やアイドルを可愛いと思うのは日常茶飯事だけど、身近な子をこんなに可愛いと思うのは初めてだ。


「委員長は、どんなコスプレするの?」

「え? 私は、普通に裏方をしようかと」


 コスプレなんて柄じゃないし、可愛い服は好きだけれど、別に自分が着たいわけじゃない。


「じゃあ、男装は?」

「え?」

「私の王子様になってみない? なーんて……」


 たぶん、天野さんは冗談を言っただけ。

 でも私の頬はどんどん熱を帯びてしまって、天野さんの顔も真っ赤になってしまった。


 どくん、どくんと心臓がうるさい。


「……なって、みようかな」


 違うの。違うからね、いちごちゃん。

 これは絶対、断じて、浮気なんかじゃない。

 私の一番はいちごちゃんだ。


「……楽しみにしてる」


 そう言った天野さんの声は、微かに震えていた。


 いたたまれなくなって、私は慌ててお昼ご飯の弁当を食べ始めた。

 学校へくる途中にコンビニで買ったものだ。


 味、全然分かんない。


 頭の中がぐるぐるする。ちら、と盗み見た天野さんの横顔はまだ赤くて、私は俯いてしまった。

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